ここ数年のサン・マイクロシステムズの凋落ぶりには、目を覆いたくなるものがあった。

 1982年に創設された同社は、スタンフォード・ユニバーシティー・ネットワーク(SUN)の頭文字を社名にしたシリコンバレーの代表的存在。創業したのはスタンフォード大学とカリフォルニア大学バークレー校の卒業生4人、いずれもが天才的プログラマー、あるいはビジネスの先見の明に長けた若者だった。

 同社はワークステーションからスタートしてサーバー技術に拡大し、プログラム言語Javaでインターネット黎明期をリードし、ITバブル期にはシスコシステムズやオラクルなどと並び勝ち組企業として注目を集めた。

 ところが、インターネット・バブルが弾けると共に、サンの業績は坂道を転げ落ちた。バブル崩壊で同じように痛手を受けた他のIT企業が数年かけて次第に回復に向かったにも関わらず、サンは再び浮かび上がらないままだった。

 そこへ昨年来の金融危機である。金融業界に高性能のサーバーを提供していたサンが受けた打撃は大きく、2008年9月までの四半期には17億ドル、12月までの四半期には1億900万ドルの赤字を出し、株価はもう半年以上10ドル以下で推移している。

 だがそれでも、サンは今もテクノロジー業界のインサイダーから尊敬を集めている存在だ。その理由は、革新的かつ先鋭的な製品と、それを支える研究開発力の強さにある。Javaの他にも、UNIXをベースにしたサーバーのためのソラリスOS、スパーク・チップなど、その技術力は業界関係者をうならせる。まずかったのは、そうしたリソースをうまく換金するビジネスモデルの構築に失敗したことと、顧客企業がHP(ヒューレット・パッカード)やデルが提供する安価なコモディティー的サーバーへこぞって移行する動きについていけなかったことだとされている。

 サンはレイオフをたびたび行い、いくつかの製品ラインや新規プロジェクト計画を断念。さらにシリコンバレーで最大級の規模を誇っていたキャンパスを大幅に縮小したうえに、残る社員のほとんどは自宅から遠隔勤務するという体制を敷いた。最近のサンの社屋を訪ねると、人の声も聞こえないほどひっそりしていたものだ。

 だが、そのサンの底力を見放さなかったのがIBMである。IBMは先頃、サン買収の動きに出た。米国メディアの報道によれば、買収提示額は65億ドルで、IBMの今年の純利益の約半分に相当するという。数々の企業を手に入れてきたIBMにとっても、これは最大級の買収規模だ。