中村繁夫
アドバンストマテリアルジャパン社長
中村繁夫(撮影:宇佐見利明)

「明日からミャンマーに出張なんですわ。反政府軍と交渉してレアメタルを買い付けるんです」。ちょっと老けたマリオのような顔から飛び出た第一声は、とても“堅気”のものとは思えなかった。

 この男こそ、日本で唯一のレアメタル専門商社、アドバンストマテリアルジャパン(AMJ)を率いる現代の山師、中村繁夫である。

 レアメタルとは世界的に産出量の限られた希少な鉱物で、パソコンや携帯電話などのハイテク機器には不可欠だ。「産業のビタミン」と称され、ハイブリッドカーもこれなしでは走れない。中国、ロシア、中央アジアに偏在しているが、産出国側が輸出の規制強化に乗り出し、その確保は年々難しくなっている。

 そこで存在感を増しているのが、腕利きのレアメタルトレーダーを擁するAMJだ。同社は日本に輸入されるタングステンでトップシェアを占め、レアアースなどでも高い競争力を誇る。

 同社最大の強みは、どんな辺境や危険地帯であろうと、社長自らが先頭に立って乗り込んでいく徹底した現場主義にある。中村がこれまでに訪れた国はじつに90ヵ国に及ぶ。

 いざ交渉となれば、持ち前の愛嬌と押しの強さで、取引先の懐にするりと入り込み、次々とビッグディールをまとめ上げてきた。その類いまれなる交渉力は、学生時代に培われたという。

“ODA”で乗り切った放浪
情報源は元KGB工作員
独断で75億円取引も

「僕はね、放浪ニートやったんですよ」。22歳のとき、大学院を休学して、ほぼ無一文で飛行機に飛び乗った。

「行き先はどこでもよかった」。ブラジル、米国、欧州など世界35ヵ国を渡り歩いた。カネなし、宿なし、コネなしの旅。移動はヒッチハイク、ホテル代などあるはずもなく、現地で日本人を探し出しては家に転がり込んだ。「最後は荷物もズタ袋1つで浮浪者みたいやったけど、『押し』『度胸』『遊び』の“ODA”で乗り切った」と笑う。この“ODA”が、後の商社マン人生でも大いに役立ったという。

 帰国した中村は「海外で出会った商社マンの羽振りのよさに目が眩んだ」と、中堅商社の蝶理に入社する。

 資源関連部門に配属された中村は、レアメタル開発にのめり込み、またも世界中を飛び回ることになる。

 仕事ぶりはまさに型破り。旧ソ連では元KGBの工作員を雇って、商売になりそうな裏情報を仕入れた。カザフスタンでのスポンジチタン取引では、会社の判断も仰がず、独断で75億円の取引を即決。上層部からは「糸の切れた凧」と疎まれたが、商売の嗅覚は鋭かった。中国福建省ではタングステンとモリブデンの開発に初めて成功、広東省ではレアアース鉱山を買い占め、巨額の利益を稼ぎ出した。