『史上最大の決断』の発売から2ヵ月が過ぎた。この間、3回の増刷を重ねることができたのは、読者のみなさんのご支援があってのことと深く感謝している。69回目を迎える8月15日の終戦記念日を前に、今回は第2次世界大戦について振り返ってみたい。

次世代経営者の課題

 このところ、本や論文の執筆に注力していて、講演はなかなかお引き受けできないのだが、最近、『史上最大の決断』に関する講演を行う機会が2度あった。1つは国内で開催された次世代経営者の育成プログラムで、もう1つはハワイで行われたフォーラムである。

【特別版】日本の敗戦から69年目に想う<前編>一橋大学名誉教授 野中郁次郎

 次世代経営者向けには「史上最大のリーダーシップ」という観点から、非凡なる凡人であるドワイト・D・アイゼンハワーについて話した。経営を学ぶ場で歴史を学ぶことに抵抗があるかと心配したが、参加者のみなさんにはいろいろ共感するところがあったようだ。

 まず、第2次大戦のヨーロッパにおける戦いについて説明したのだが、聞いてみると、史実について何も知らないという人が多かった。日本軍の戦いについては、真珠湾やガダルカナルの戦いなど、断片的には知識があるものの、ヨーロッパ方面の戦史についてはほとんど知識がなく、初めて知って驚いたと言う参加者もいた。フランスがドイツよりも強大な軍隊と経済力を持ちながら、わずか6週間の戦いの末ナチスの軍門に下ったことや、史上最大の作戦としてノルマンディー上陸戦が行われたことを説明すると、みな一様に、欧州戦線はこんなにも興味深いものなのかと、率直に感銘を受けていた。観念論過多の今の日本はあの時のフランスのようではないか、という指摘もあった。 

 しかし、戦史のリアリズムを感じただけではなかったようだ。次世代経営者の中には、チャーチルのようにカリスマ性がある偉大な現在の経営トップをいかに乗り越えるのか、という大きな課題を背負う人たちもいる。その点、フォロワーからリーダーになった凡人のアイゼンハワーには、その課題解決のヒントがあるという確信を得たように見受けられた。