ビジネス・ノンフィクションとしての迫力にも満ちた『30歳で400億円の負債を抱えた僕が、もう一度、起業を決意した理由』の著者である起業家・杉本宏之氏が、本書の中にも登場する起業家と語り合う。第2回に登場するのは、どん底の時期、著者を支えた恩人でもある、サイバーエージェントの藤田晋氏である。(構成・寄本好則 写真・寺川真嗣)

経営者としての覚悟って
調子のいい時は忘れがち

藤田 『30歳で400億~』、売れているらしいね。

杉本 ありがとうございます。藤田さんと堀江さんに帯の推薦文をいただいたおかげです。

藤田 僕は知ってるエピソードも多かったのだけど、ブログにも書いたように、ご主人の退職金をエスグラントの株に投資して、励ましの手紙をくれた女性のエピソードは心に残った。経営者としてのエグい現実を突き付けられてる思いがした。退職金のような貴重な資金を投資してくれる株主や、人生を賭けて働いてくれる社員のことなど、調子のいい時は忘れがちになってしまうけど、経営者である限り、常に頭の片隅にあるからね。それはたとえ夜ごとに飲んだくれていたとしても。

杉本 そうですね。まして、危機に直面している時にいただいた手紙だったので、僕自身、今でも忘れることができません。

ある女性からの一通の手紙
地獄の底でのたうち回っている頃、ある女性からこんな手紙が届いた。

 拝啓 杉本社長様
 私は60歳を過ぎた年金生活者です。
 一昨年、お父さんが退職した時のお金でエスグラント株を購入しました。でも、昨近の経済情勢で株は下がり続け、ついに700万円の簿価が100万円を切りました。私は何度も売ろうとしたけれど、あなたの顔を見ているとなかなか売れなくて結局ここまで来てしまいました。とにかく辛い時も前を向いて頑張って下さい。

 700万円もの退職金を、私を信じて投資をしてくれたこのご夫婦に、今の俺は何ができるのか。こんな情けない男に、それでもまだ頑張れと言ってくれている。700万円も損をさせられたら、殺してやると言われても不思議ではない。
「いっそ、殺したいと言われたほうがましだ」
 私は手紙を握り締めて呻いた。(『30歳で400億円の負債を抱えた僕が、もう一度、起業を決意した理由』本文より)

藤田 この本を読んで僕が少し反省したのは、杉本くんが上り調子の時、誰かに紹介する際に「彼は年商70億の社長です」と、年商の金額を肩書き代わりにしていたこと。それが、杉本くんにとって年商額が自分のクラスを維持するために大切だっていうプレッシャーになってしまったんじゃないかと思う。

杉本 ああ、たしかに、売上規模の拡大に囚われたのは、最大の反省点です。つじつま合わせに躍起になっていましたから。

藤田 同じ不動産業のゴールドクレストの安川さんが、不動産業界が好況に沸いている中で新たな投資を手控えたエピソードが出てくるでしょう。

杉本 はい、実際のお付き合いはないんですけど、あえて書かせていただきました。

藤田 本の中で杉本くんも「踊るしかないパーティ」に浮かれてしまったと反省していたけど。当時の状況下で、安川さんがとった判断は周りからすると理解できなかったかもしれない。それでも誰に何を言われても自分の意思を貫く強さが、経営者には必要。

杉本 驚くほどのメンタルの強さだと感じます。

藤田 とにかく、踊ってしまった杉本くんの会社が潰れて、安川さんは生き残ったというのが現実。裏返すと、ほとんどの人は生き残れない。経営者は、すごく難しいことをやっているんだっていう意識を忘れてはいけない。この本が思い出させてくれました。

起業家対談シリーズ第2回 藤田晋<br />経営者は「流されない覚悟」がないとやっていけない