「旧正月前の1月28日、ゴルフをしながら懇親会をやりましょう」。日本航空(JAL)の法的整理方針が決まったのは1月8日。その翌週、JAL台湾支店の王富民営業マネジャー名で取引先に出されたこのメールは、月1回開催しているJALと現地の旅行代理店などが参加するゴルフコンペの案内状だ。

 費用は割り勘だが、プレー後の懇親会費用はJAL持ち。さすがに取引先からは「正気なのか?」との声が上がっており、中止の可能性もあるという。

 台湾だけではない。フランス・パリ支店では1月15日、支店従業員や空港スタッフなど約100人を集め、新年会としてセーヌ川クルージングパーティが会社経費で開催された。

 同じ頃、日本では1月19日の会社更生法適用申請を控え、政府や霞が関を巻き込んで、信用不安の火消しや、今後の安全運航を担保するための施策検討が急ピッチで行われていた。

 会社が倒産するにもかかわらず、危機感ゼロでゴルフやクルージングに興じている海外支店と国際線事業は、今後のJAL再生計画でいちばん頭の痛い部分だ。

 未曾有の航空不況で世界中のエアラインが赤字決算を余儀なくされるなか、機材年齢が古く、大量の燃油を食う大型機を中心に飛ばしているJALは他社以上の苦戦を強いられている。

 また、これまでフラッグシップ・エアラインとして「大使館に準じる存在」を目指した海外支店の経費も重くのしかかっている。「JALのプライドの源泉」ともいえる国際線と海外ネットワークは、赤字の元凶でもあるのだ。

 今回、企業再生支援機構による3000億円の増資や、日本政策投資銀行などによる6000億円の融資枠が用意されているものの、今年度の営業赤字は約2600億円にも上る予定。法的整理によってさらなる顧客減も懸念されている。潤沢な資金が用意されているとは言いがたい。

 資金が足りなくなる前に再生の道筋をつけなければ、再度公費をつぎ込むか、もしくは清算の道を歩むよりほかはなくなる。

 ロクに再生計画を議論しないまま法的整理に踏み切ったため、詳細なリストラ計画は今後の大きな課題。国際線を大リストラしたうえで、全日本空輸(ANA)に統合させる案も検討の俎上に載せられている。

 国土交通省は「JALとANAの国内2社体制による競争環境の維持」が持論だが、ここにきて前原誠司・国土交通大臣の口から「JAL・ANAの2社体制が成り立つかどうか、見極めるべき」との発言も出ている。

 倒産の憂き目に遭ってなお、お公家体質が横行しているJALだが、公的資金でV字回復というような明るい未来はなさそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 津本朋子)

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