1ドル109円台──。9月19日の円相場は、6年ぶりとなる円安ドル高水準を付けた。その背景には、投機と実需による攻防戦と、国内外におけるマネーの動きの構造転換があった。

「108円のところにバリアがある。ノックアウトさせろ!」

 9月中旬、ヘッジファンドなどの投機筋は、「ノックアウト」を合言葉に円安に振ろうと動いていた。

 これに防戦を強いられていたのが、食品やアパレルといった輸入企業などの実需筋だ。彼らはドルで海外から商品や材料を買うため、円建てで支払う金額を確定させる為替予約をしている場合が多い。

 ところが、ここに落とし穴が潜んでいた。通常の為替予約では、「これ以上の円安になったらドル買い予約の権利を手放す」というバリアオプションを付ける。リスクを取ってコストを抑えるためだ。そして、権利を手放すことをノックアウトと呼ぶ。今回は価格設定108円という為替予約が多くあり、急激な円安でバリア突破が現実味を帯びてきてしまったのだ。

 しかも、「『バリアは突破するためにある』が業界の常識」(大手銀行為替ディーラー)という投機筋に、価格を見透かされてしまった。となれば、彼らの脳内は、ノックアウトさせた後に実需筋にドルを買わせ、ひともうけという勝ちパターンをはじき出す。

 その結果、円安に引っ張る投機筋と、108円を最終防衛ラインとした実需筋の綱引きが激化した。9月中旬に数日間107円台でもみ合った原因とみられている。

 しかし、「実需筋の影響力は極めて弱い」(外資系金融関係者)。連休明け翌日の9月17日、あえなく108円のバリアは突破されてしまったのだ。

 ノックアウトで為替予約がキャンセルされたことに加え、多くの実需筋は円安ドル高のスピードについていけず、ほとんどドルを手当てできていなかった。その上、攻防戦で積んだ、円買いドル売りのポジションの解消も必要だった。

 その結果、実需筋は円売りドル買いへ奔走。さらなる円安ドル高を自ら引き起こしながら、断末魔の叫びを為替市場に響かせた。

 一方、まんまとバリアを突破した投機筋は、利益を確定。ひともうけを完了したというわけだ。

 急激な円安を引き起こしたもう一つの要因である世界的なマネーの動きの構造変化については、本誌の大図解でわかりやすく解説しています。ぜひご参照ください!

為替・株価をプロが大予測
1ドル120円、株価は?

 これから2015年末にかけては、世界各地で市場を揺るがすようなリスクイベントがめじろ押しだ。相場は今後どう動くのか。マーケットを知り尽くした為替と株のプロそれぞれ5人に、15年末までのドル円レートとユーロ円レート、日経平均株価を予測してもらった。

 ドル円レートについては、ドル高円安基調が続くという点で一致した。

 日本銀行が異次元の金融緩和を続ける一方、景気回復の足どりが固まりつつある米国のFRB(米連邦準備制度理事会)は、10月にQE3(量的緩和第3弾)を終了させる。さらに、時期の予想については、第2四半期から第4四半期までばらつきがあるものの15年中には利上げが始まると予想されている。

 日本の貿易収支の赤字幅が拡大したことで、「円を売ってドルを買う実需が増えている」(唐鎌大輔・みずほ銀行国際為替部チーフマーケットエコノミスト)。赤字は海外への支払額が海外からの受取額より多くなっている状態だ。支払いのためには主要決済通貨であるドルを買わなければならない。

 こうした金利差拡大と需給バランスの変化を反映する形でドル高円安が進む。

 円安進行で日本株はこれまでのように上昇するのか。この問いに対する回答者の答えはイエスである。

 円安でも輸出数量が増えないことから、弊害を指摘する声も多い。しかし、数量が増えなくとも、輸出企業の多くは海外販売価格を引き下げておらず、円ベースでの利益が増加している。また、「円安が進めば、海外拠点の利益の円換算値が膨らむ」(広木隆・マネックス証券チーフストラテジスト)。双方の効果で企業業績は拡大し、株価上昇の材料となる。

 2015年末にかけての為替と株価の具体的な予測値については、本誌でじっくりご確認ください!

円安にのる金融商品355本
世界経済のリスクシナリオは?

『週刊ダイヤモンド』10月4日号の特集は、「円安再燃!」です。

 年が明けてからずっと、為替も株も一定のレンジ内でしか動かない膠着相場に入っていました。打ち明けると、マクロ経済・マーケット担当としては、“凪”状態のマーケットを題材とした特集企画はなかなか作りにくい状況でした。

 それならば、「なぜマーケットは膠着しているのか」という逆転の発想から特集を作ってみようと動き出した矢先に、マーケットが急変したのです。9月8日の週のことでした。急遽企画を大きく変更し、なんとか特集が出来上がりました。

 本特集ではまず、膠着相場が急変した背景を、マーケット関係者の証言を基に明らかにします。そこには、先述したように、ヘッジファンドなどの投機筋と輸入企業などの実需勢との激しい攻防がありました。

 さらに、急激な円安がどこまでいくのか、株価も円安に連れて上がっていくのかを、マーケットを知り尽くしたプロに予測してもらいました。

 円安を背景に、最近では外貨建て投資商品の人気が高まっています。そこで、円安に乗る金融商品として、株、投信、外貨投資商品など355本を選び出し、リターンとリスク、コストを徹底比較しました。商品選びの参考に、ぜひご覧ください。

 今年10月以降2015年末にかけては、世界各地でマーケットを揺るがしかねないリスクイベントがめじろ押しです。

 日本では、消費税率再引き上げの判断や日本銀行の追加緩和、米国は金融緩和の出口戦略(利上げのタイミング)、欧州ではデフレ回避のための量的緩和(国債買い入れ)、中国は習近平総書記の権力基盤が安定するか否か。これらのリスクイベントで、為替や日本株がどう動くのかをわかりやすく図解で示しました。

 マーケットが動いているときは、投資のチャンスでもありますが、同時にリスクも高まります。本特集が、今後の相場の行方を見通すための参考になれば幸いです。

 

2014-10-04

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本誌2014年10月4日号

「円安再燃!いま狙う株・投信・外貨投資」


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