老朽化したマンションは都市部を中心に増える一方。ならば建替えもどんどん進んでいるかといえば、全国でまだ、たった207件しか建て替わっていない(注1)。何がネックになっているのか。どうしたら成功に導けるのか。最近の動きはどうか。マンション建替えに詳しい再開発プランナーの山田尚之氏に聞いた。

建替えが難しい、条件の
良くないマンションが増加

 マンション建替えは、区分所有者全員の合意を図りながら進める息の長い事業。その一方で事業環境は刻々と変わっていることも忘れてはならない。

yamada再開発プランナー
マンション建替えアドバイザー
山田尚之 氏

萩中住宅以来多くの建替え事業に参画。豊富な専門知識と経験をもとに初動期の組織づくりから合意形成までサポートし、マンションや団地の再生を実現している。2013年諏訪2丁目住宅の建替えが終了。14年10月に独立し、敷地売却なども視野に入れたマンション再生をサポートするコンサルタント事務所を設立。

「一般にマンション建替えの事業費は、保留床(権利者が取得できる権利床以外の部分)を設け、それを売却することで賄います。

 そのためには容積率に余剰があり建物を大きくできること、市場性があって売れることの2条件が必要です。過去の建替え成功事例はおおむねこの条件を満たしていました。

 ただし、そのように恵まれたマンションはごくわずか。これから建替えが必要になるマンションは明らかに条件が厳しくなっています」

 最近の建替え動向として山田氏が指摘するのは、(1) 保留床がとれず還元率が良くないマンションが増えている、(2)工事費や人件費が上がり建設コストがかさんでいる、(3)都心では既存不適格だったり権利関係が複雑なため建替えが困難な物件が多い、という3点だ。

「中でも区分所有者の皆さんの関心が高いのは還元率のことですが、都心部のマンションは最初から容積率を使い切って建てていますから、余剰が出せない。例えば港区辺りで総合設計制度を使って割り増しをしても、100%還元は無理で、せいぜい80%がいいところ。建替えは単純な等価交換の時代から、複雑な応用問題の時代に入ってきました」

(注1)国土交通省調査、2013年4月1日現在。