販売手数料収入を中心とした営業から、預かり資産を増やすコンサルティング営業への改革を推し進める野村ホールディングス。新たな目標からは課題が浮かび上がってきた。

「退職が決まった人には、顧客情報の入ったパソコンを使わせないように」

 今夏、野村證券の支店関係者に突如、このような内容の通達が届いた。野村グループ内で退職を決めた社員が顧客情報を持ち出そうとする動きがあり、“裏切り”を察知した本社が対応したのである。

 支店関係者は「こんなことはこれまでなかった。それだけ人材が流出しているのか」と動揺を隠さない。持ち株会社の野村ホールディングスグループ広報部は「人材流出は起きていない」との見解を示すが、このタイミングで人材流出の加速を思わせる本社の対応に現場で不安が高まっている。

 というのも、野村證券は今、支店の営業スタイルを大転換させている過渡期にあるからだ。

 もともと野村といえば支店や営業担当者ごとに厳しいノルマが課されることで有名だった。それが圧倒的な営業力の源泉となり、国内支店を中心とした「営業部門」がグループ全体の利益の半分以上を稼ぎ出してきた。

 その収益の土台は、投資信託の販売だ。投信では、販売時にだけもらえる3%程度の「販売手数料」と、販売後に顧客の預かり資産残高に応じて毎年得られる1%程度の「信託報酬」という二段構えの収益が入る。投信は長期保有が基本であるため、証券会社の経営は本来、預かり資産を積み増し、信託報酬を増やすのが理想である。

 だが、月次で収益目標を課された営業マンは、年間1%の信託報酬よりも、目の前の販売手数料3%を優先させ、投信を短期で売り買いさせて稼いできた。