お客様や視聴者から、一瞬にして信頼を得なければならない立場にあるリッツ・カールトンとNHK。
2大ブランドを確立、維持していくための根っこに流れる思想、哲学はどんなものがあるのか? 
アメリカのプラザホテルなど、世界の有名ホテルを渡り歩き、ホテルマンとしてはリッツ・カールトン日本支社長までのぼりつめた高野登氏。そして、NHKのニュースキャスターとして17年、現在はスピーチコンサルタントとして日本全国でセミナー・講演をしつつ大学で教鞭をとる矢野香氏が、人から信頼を得るための秘策を公開する初めての対談。
2014年10月10日午前10時にダイヤモンド社で行われた対談は、どんな結末を迎えるのだろうか?(構成・鈴木雅光)

【第9回】<br />「リッツ式」か?「NHK式」か?<br />一分で一生の信頼を勝ち取る法<br />高野登×矢野香対談【前篇】高野 登(たかの・のぼる)
1953年、長野県戸隠生まれ。ホテルスクールを卒業し単身渡米。NYプラザホテルに勤務した後、LAボナベンチャー、SFフェアモントホテルなどでマネジメントを経験。リッツ・カールトンでサンフランシスコをはじめ、マリナ・デル・レイ、ハンティントン、シドニーなどの開業をサポートしつつ日本支社を立ち上げる。リッツ・カールトン日本支社長として1997年、ザ・リッツ・カールトン大阪、2007年にザ・リッツ・カールトン東京の開業をサポート。リッツ・カールトン退社後は、全国で講演・セミナーをしながら、企業、病院、学校、地方自治体などの組織づくりをサポート。同時に「寺子屋百年塾」を立ち上げ、独自の勉強会を主宰。著書に『リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間』『リッツ・カールトンとBARで学んだ高野式イングリッシュ』など多数

身体が動いていないプレゼンは
何も語っていない

高野『【NHK式+心理学】一分で一生の信頼を勝ち取る法』。正直、僕はこの本にもっと早く出合っておきたかった。NHK式となっていますが、リッツ・カールトンで私たちが実践していたことと共通する点がたくさんあり、興味深く読みました。

矢野 ありがとうございます。私も、高野さんが書かれた『リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間』を拝読しましたが、「あ、ここ同じだ」と思う点がたくさんありました。

高野 矢野さんは、スピーチする際にジェスチャーを用いることがいかに大事か、という点に言及されていますが、アメリカでホテル営業のトレーニングを受けるときにまったく同じことを指摘されました。「身体が動いていないプレゼンは何も語っていない」と。

矢野 私もよく「身体はしゃべる」という言い方をします。ただジッと立って話すのではなく、ジェスチャーをうまく使うことによって、聞き手に強く印象づけることができます。

リッツとNHKでは、
どんな研修をしているのか?

高野 アメリカ企業では、営業担当者必須のトレーニングというのがあるんですよ。「ディメンジョン・オブ・プロフェッショナル・セリング」というカリキュラムで、私はウェスティンホテル時代にこれを受けました。なかなか厳しいカリキュラムなのですが、とても勉強になりました。

【第9回】<br />「リッツ式」か?「NHK式」か?<br />一分で一生の信頼を勝ち取る法<br />高野登×矢野香対談【前篇】矢野 香(やの・かおり)
スピーチコンサルタント。信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。 NHKキャスター歴17年。おもにニュース報道番組を担当し、番組視聴率20%超えを記録した実績を持つ。 大学院では、心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、修士号取得。 現在は、国立大学の教員としてスピーチ研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職、ビジネスパーソン、学生などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。 相手に与える印象の分析・改善力に定評があり、話し方・表情・動作を総合的に指導。全国から研修・講演依頼があとをたたない。 著書に、ベストセラーとなった『その話し方では軽すぎます!――エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』(すばる舎)などがある。 【著者オフィシャルサイトはこちら】

矢野 どのようなことをするのですか。

高野 一例ですが、20名程度で3日間、スピーチのテーマに沿って、自分の話しているときの姿をビデオで撮影します。そして1日のカリキュラムが終了した後、自分の映像を見ながら、参加者全員で講評するんですよ。私なんか、ネイティブ・イングリッシュではないから、「L」と「R」の発音がわかりにくいとかね、いろいろ言われるわけです。

矢野 自分の見せ方ってとても大事ですよね。アナウンサーは毎日自分が画面に映っている姿を見ていますし、上司や視聴者から、いろいろ指摘を受けますから、「セルフモニタリング(自己観察)」と「フィードバック(他者からの指摘)」の両方で日々、鍛えられます。特に話し方を鍛えるという意味では、セルフモニタリングがとても有効です。

高野 自分が講演でしゃべっている姿をビデオに撮って、後で観るのですが、意味のない動きって結構ありますよね。だから、身体を動かすことは大事なのですが、それが意味のあるジェスチャーなのか、それとも単なるノイズなのかということには、常に留意しています。

矢野 ジェスチャーを意味のあるものにすることで、話し手の好感度、信頼感が大きく向上しますから大事ですね。