米サブプライム問題、日米景気後退懸念や円高観測など不透明要因に株式市場は過敏に反応している。だが多くの投資家には「日本株は割安」という思いがある。東証一部の平均配当利回りは1.7%(2008年2月21日時点)で、長期金利を上回る。PBRを各国と比較しても米国の2.7倍、英国の2.2倍と比べ、日本は1.5倍と低水準だ(モルガン・スタンレー・インターナショナル調べ。2008年1月末時点)。確かに日本株は割安だが、外部材料が不透明過ぎて積極的に買いにくい。しかし多くの投資家が手控えるときこそ、株価は割安に放置される。こうした環境に合う戦略で地道に物色することが大きな投資成果につながるのだ。

 今回は低PBR銘柄のなかで、配当利回りが高い銘柄に注目する。相場の方向感がわかりにくいときほど、単純な戦略が有効だ。多くの投資家は不透明感が高まると、将来も高成長が持続して収益が安定しそうな企業に目を向けがちだ。

 悩める投資家は、将来の展開をさまざまに予想する。「サブプライム問題の深刻化で日米景気が悪化しても成長が維持できる銘柄はどれか」といったことを考える。思考は複雑になっていくが、最終的には業績が安定する低リスク銘柄などに落ち着きがちだ。もちろん多くの投資家がこう考えれば、安定成長銘柄は割高になる。高い投資成果を得るにはもっとシンプルに割安株投資を考えるべきだ。

局面別株価指標有効性と低PBR銘柄 割安株投資にはいくつかの方法がある。右図では代表的な3指標を取り上げた。PER(1株当たり純利益÷株価)、PBR(1株当たり純資産÷株価)、配当利回り(1株当たり配当÷株価)。この3指標は株価の割安度合いを測るが、別の意味も持っている。足元の不透明感が高い状況ではPERよりPBRを使うべきなのだ。PERは利益から株価の割安度を見ている。だが、日米景気の減速感や円高観測があるなかで来期以降の企業業績の見通しはわかりにくい。PERの計算に使う予想利益が信頼できなくなるのだ。

 このような局面では、土地や建物といった実物資産を基準に求めた、PBRの信頼感が高まる。一方、配当利回りの有効性も中程度ある。投資家は不透明感が高まると、会計上の数値にすぎない利益より、実際に現金を受け取れる配当を重視するからだ。ただし配当への過度な注目は危険。将来利益が下がれば減配もあるからだ。最近は企業も業績連動で配当を支払う姿勢を強めているのである。

 サブプライム問題が最悪の事態に発展した場合にはどうなるか。これは上図の「不透明感が極大」となった場合だ。このケースでは投資指標はどれも効かなくなる。「不透明感が大」で効果的だったPBRも、その前提の純資産の価値が下落してしまう。ただ筆者は「不透明感が極大」となる可能性は小さいと見ている。米国は利下げを迅速に行なうなど、対策に真剣に取り組んでいる。悪材料を過度に意識するのでなく、PBR効果を期待して投資したい。

 表は東証一部からPBRが低い銘柄をランキングした。銘柄の絞り込みには配当利回りを使うとよいだろう。長期金利に0.5%程度上乗せした、2%を上回る銘柄が投資候補となりそうだ。

(大和総研投資戦略部チーフクオンツアナリスト 吉野貴晶)