「セクシャルハラスメント」で苦しむ女性がいる。強く拒絶の意思を示し、抵抗する人がいる一方で、泣き寝入りをせざるを得ない人も少なくない。

 今回は、セクハラと闘ったことにより、上層部の怒りを買い、会社から嫌がらせを受けている女性社員を紹介する。

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■今回の主人公
古嶋明日香 仮名(34歳 女性)
勤務先: 情報通信機器販売会社。従業員数250人。全国に販売網をもつことで、安定した売上を維持している。オーナー経営ではあるが、比較的、民主的な経営が行われ、職場の雰囲気は良好。しかし、問題は起きていた。
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(※この記事は、取材した情報をプライバシー保護の観点から、一部デフォルメしています)

「打診」という名の
「業務命令」

 古嶋明日香は、3階のミーティングルームに呼ばれた。人事異動の内示を受けるためである。

 毎年2月上旬になると、この会社は、全社員を対象にした人事異動を行なう。異動になる人は人事部の部長と話し合い、その場で打診を受けることになっている。社内では「打診」という言葉が使われているが、実態は限りなく、「業務命令」に近い。

 「あなたには、今度、高橋部長の部署に行ってもらいたいと思っています。あそこで……」

 「私が異動するのですか? まだ、いまの部署に移って1年しか……」

 「営業推進部はこれから、各支店へのバックアップ体制を強化しようとしています。だから……」

 「なぜ、私が選ばれたのですか?」

 「あなたは、品川や新宿支店に勤務していたことがあるじゃないですか?支店の内情をひととおり心得ていることが決め手になりました」

 「支店で働いた経験のある人は、私以外にもたくさんいると思いますが……」

 「あなたはもうベテランの域に達しつつあるから、いつまでもいまのところにいるのは好ましくない。今度は、高橋部長のところで……」

 「いま、この場で返事をする必要がありますか?」

 人事部長は、少し間をおいたあと、低い声で応えた。

 「そりゃあ、配置転換には常識的に従うべきだろう。拒むときには、会社として対応を考えざるを得ない。その意味するものは、君は心得ているだろう」

 古嶋はうつむいたまま、何も答えなかった。結局、数日以内に、人事部長に配置転換を受けるかどうかを回答することになった。

1年前に起きたセクハラ事件。
第3者による「調停」へ

 古嶋は部屋を出ると、急いで階段を駆け上った。向かう先の6階には会議室がいくつかあるが、ふだんはほとんど人がいない。6階につくと、すぐ携帯電話をかけた。相手は労働局に勤務する相談員。この相談員は、セクシャルハラスメントなどで苦しむ女性に専門で対応している。