世界を変える“未来のチェンジメーカー”を輩出するため、アメリカン・エキスプレスとダイヤモンド社が共同で立ち上げた次世代リーダー育成プロジェクト「世界を変える100人になろう」。2010年にスタートし、これまでに400人以上の卒業生を輩出してきた。5年目を迎えた今年のテーマは、「2020年のニッポンをデザインする」。そのテーマに共感し、厳しい審査を経て選ばれた大学生・大学院生100人が全国から集結。3日間の特別プログラムに参加し、未来のシナリオづくりに取り組んだ。

未来を描くうえで欠かせないのは、すでにいま起き始めている「変化のきざし」を感じ取ること。そこでプロジェクトの初日には、様々な分野で課題解決に挑戦しているビジネスパーソンによる講演やパネルディスカッションなどの講座が多数開かれ、受講生たちの頭をゆさぶるインプットが行なわれた。本日はその講座のなかから、いま日本が抱える大きな課題の一つである外交問題をテーマにしたパネルディスカッション「世界で生きる ~激論!日中韓関係」の模様をリポートする。

◎パネリスト
加藤嘉一(国際コラムニスト)
工藤泰志(言論NPO代表)

◎モデレーター
米倉誠一郎(一橋大学イノベーション研究センター教授/世界を変える100人になろうプロジェクト塾長)

国民対国民で、
問題を解決していく時代

米倉 2010年の中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件に始まり、2012年日本政府による尖閣諸島の国有化、それを受けて、中国国内では激しい半日デモも巻き起こりました。1972年の日中国交正常化以来最悪と言われ、お互い近くて遠い国となってしまった日中関係ですが、こうなってしまった根本的な要因はどこにあるとお2人はお考えですか?

加藤嘉一(かとう・よしかず) 国際コラムニスト 1984年静岡県生まれ。日本語、中国語、英語で執筆・発信する国際コラムニスト。2003年高校卒業後単身で北京大学留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。学業の傍ら、中国メディアでコラムニスト・コメンテーターとして活躍。2010年、中国の発展に貢献した人物に贈られる「時代騎士賞」を受賞。2012年2月、上海復旦大学新聞学院にて講座学者として半年間教鞭をとり、その後渡米。ハーバード大学ケネディースクールフェロー、同大アジアセンターフェローを歴任。2014年夏からは米ジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院の客員研究員として、ワシントンDCを拠点に“日米同盟と中国の台頭”をテーマにした研究・発信に挑む。中国語による単著・共著・訳著は10冊以上。日本では『たった独りの外交録』(晶文社)、『われ日本海の橋とならん』(ダイヤモンド社)など多数。世界経済フォーラムGlobal Shapers Community(GSC)メンバー。

加藤 僕は、いまの状況は「必然的」、つまり起こるべくして起こっていると思っています。「80年代、日中関係はとても良かったのに、なぜいまはこんなに悪くなってしまったのか」とよく言われますが、それは日中間の交流が深まって、お互いの顔がちゃんと見えるようになったから。良いところも悪いところも見えてきたからこそ、摩擦が起きているのです。

 もちろん、冷戦の崩壊や、リーダー国なきGゼロの時代、アメリカの東アジアに対するコミットメントなど、いろんな構造的要因はありますが、根本的には日中の人々の交流が多角的に深まり、いろんなことが見えてきただけに過ぎません。いまの状況は、起きるべくして起きたことのなのです。

米倉 それはある意味、進化のプロセスの通過点に過ぎない、ということ?

加藤 そうですね。72年に日中国交正常化し、それからの40年間というのは、「国家間関係」を正常化させ、促進するプロセスでした。しかしこれからは、“nation state(国民国家)”という言葉があるように、「国民間関係」を正常化するプロセスだと言えます。国民対国民で議論し、課題を見つけ、それを解決する戦略を模索し、コミットメントしていく。国民と国民が問題を解決する時代がすでに始まっているのです。その意味では、国家の役割はこれまでより限定されていくのではないか、と僕は考えています。