世界を変える“未来のチェンジメーカー”を輩出するため、アメリカン・エキスプレスとダイヤモンド社が共同で立ち上げた次世代リーダー育成プロジェクト「世界を変える100人になろう」。2010年にスタートし、これまでに400人以上の卒業生を輩出してきた。5年目を迎えた今年のテーマは、「2020年のニッポンをデザインする」。そのテーマに共感し、厳しい審査を経て選ばれた大学生・大学院生100人が全国から集結。3日間の特別プログラムに参加し、未来のシナリオづくりに取り組んだ。

未来を描くうえで欠かせないのは、すでにいま起き始めている「変化のきざし」を感じ取ること。そこでプロジェクトの初日には、様々な分野で課題解決に挑戦しているビジネスパーソンによる講演やパネルディスカッションなどの講座が多数開かれ、受講生たちの頭をゆさぶるインプットが行なわれた。本日はその講座のなかから、規制大国ニッポンにおける三大規制産業、医療/エネルギー/農業での新たな取組みにフォーカスしたパネルディスカッション「規制改革とイノベーション」の模様をリポートする。

◎パネリスト
川添高志(ケアプロ株式会社 代表取締役社長)
鈴木悌介(一般社団法人エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議 代表理事)
山下一穂(山下農園 代表/有機のがっこう「土佐自然塾」塾長)
◎モデレーター
米倉誠一郎(一橋大学イノベーション研究センター教授)

規制のなかで生まれた
新たな健診サービス

米倉 「ワンコイン健診」という全く新しい医療サービスを日本で立ち上げ、ヘルスケア業界の革命児と言われる川添さんですが、そもそもなぜこのビジネスを始めようと思ったのですか?

川添高志(かわぞえ・たかし) ケアプロ株式会社 代表取締役社長 1982年神奈川県生まれ。慶應義塾大学看護医療学部卒業。大学3年と4年時に米国MayoClinicで研修を受けるなかで、Retail ClinicやIn-Store Healthcareの業態を知る。その後、東京大学病院で看護師として勤務するなかで、重症化した糖尿病患者の状況を目の当たりにし、日常的な健康診断の重要性を実感。そこで2007年、ケアプロを起業。気軽に健診が受けられる画期的なシステム、「ワンコイン健診」を中心に、一人ひとりが自分の健康を守れるよう、様々な予防医療を人々に提供している。

川添 それは、いまから8年前、僕が24歳のときのことです。当時僕は、東大病院の看護師をしていたのですが、ある糖尿病患者さんの衝撃的な姿を目の当たりにしたのがきっかけでした。その方が病院に来たときにはすでに重度の糖尿病合併症を発症していて、診察の結果、すぐにでも足を切断しなければならない状況でした。「もっと早く健康診断を受けていれば・・・」と悲しそうにつぶやいた姿がいまでも忘れられません。

 しかし、そうした患者さんは彼だけではありませんでした。失業してお金がなく、健康診断はおろか、保険証も持っていないホームレスの方や、その日暮らしのフリーターの若者、子どもがいて病院に行けない主婦、日中仕事を休めない自営業の方など、そうした経済的にも時間的にも制約のあった人たちが病院に行ったり、健康診断を受けたりすることができないために、気づかないうちに重症化していく。そうした人たちが異変を感じて病院に行ったときはもう手遅れだったりするんです。そうした人たちを多く目にし、日常的な健康チェックの必要性を痛感しました。実は日本には、定期健診を受けていない成人が3300万人以上もいるんです。

 そこで僕は、学生時代のアメリカ研修時に見た「In-Store Healthcare」のことを思い出し、誰もが気軽に健診ができる場所を作ろうと、ケアプロを起業しました。ケアプロでは、お客様が自分自身で指に針を刺す「自己採血」モデルで健康診断を行っています。これは、いわゆる“自傷行為”であり、医療行為とは見なされません。いわば、ビアスの穴を自分で開けるのと同じ。そのため、医師がいなくても健診をすることができるのです。しかし、最初の頃は、苦労の連続でした。お店を出しても、「医者を置かないと警察に告発するぞ」といったように、脅しや嫌がらせもたくさん受けました。