議員や官僚も
予想外の解散

 今月21日に衆議院が解散された。安倍晋三首相が「解散」について記者会見で表明したのは18日の夜7時過ぎであったが、それまでは、本当に解散となるのか、実は疑心暗鬼に包まれていた。解散の話がマスコミ上でかなりの信憑性を持って語られ始めたのは、今月初めだったように思う。

 私は当初、まったく信じていなかった。だが、全国紙やテレビ局の報道が迫真になりつつあったので、ひょっとしたら解散かと思い始めた11日に、「総選挙は600〜700億円の税金事業。任期まで政策をやるべし」旨をツイッターに投稿した。解散・総選挙をしているような経済社会情勢とはとても思えないからだ。

「政治は一寸先も闇」。

 今回の解散劇は、国会議員や官僚たちにも予想外の展開だったようだ。外遊中で自民党本部の動きにやや乗り遅れた気味であった党首脳は、「アベノミクスの正当性を確認するための“念のため解散”」と評した結果、700億円もの税金を単に“念のため”に費やすのか、と厳しい批判に晒された。

 ある国際政治学者は「消費増税見送りを国民に問う選挙なのか、安倍政権への支持が高い一方で野党の選挙準備が整っていない隙を狙った大義名分のない選挙なのか、今回の総選挙の争点は何なのか」と語っていた。

高齢層には手厚過ぎ
若年層には冷た過ぎ

 安倍首相は今月18日夜の記者会見で、2015年10月に予定されていた再増税(税率8%→10%)を2017年4月まで延期することについて、「個人消費を押し下げ、デフレ脱却も危うくなると判断した」「国民生活、国民経済にとって重い重い決断をする以上、速やかに国民に信を問うべきだと決心した」と語った。再増税による税収増は5.2兆円程度を見込む。それを断念した瞬間であった。

 多くの国会議員には、今回の解散それ自体には否定的な意見が多いが、再増税延期それ自体には肯定的な意見が多い。現在の痛みから逃れるということは、将来の痛みが更に大きくなることを意味する。しかし残念ながら、そうした視点も感性も、与野党いずれにも微塵も感じられない。

 少子化を凌いでいくための子ども・子育て対策への財源が安定的に確保されない。高齢化によって増え続ける年金・医療など高齢者対策を削減することはおろか、抑制することもできない状況が更に続くことになる。

 高齢層には手厚過ぎるが、若年層には冷た過ぎる——。

 これが今の日本の政治なのだ。