非常識とはまさにこのことだろう。

 今年1月に発覚したNHK記者ら3人によるインサイダー取引事件を調査してきたNHKの第三者委員会が5月27日、調査結果を公表した。

 同委員会は、この3人の事例以外に、「インサイダー取引と認められるものは確認できなかった」と報告する一方で、契約スタッフを含む約1万3000人への調査で、勤務時間中に株取引をしていた職員は内部調査で判明したその3人を大きく上回る81人だったことも明らかにした。

 むろん違法でない限り、株取引自体をとやかく言うつもりはない。ただ、問題なのは、第三者委員会の調査に協力しなかった職員がかなりの数に上っていることだ。本人或いは家族名義での株式保有を認めた職員の約3分の1に当たる943人が取引履歴の調査への協力を拒否し、さらに150人は、株保有の有無に関する回答を拒否したという。

 読売新聞の記事によると、彼らの一人の言い分は「プライバシー侵害だから」調査への協力を拒否したという話で、開いた口がふさがらない。メディアの仕事に携わっていて、自分の株取引の内容を明らかにすることがプライバシーに侵害だという神経及びバランス感覚は、非常識というほかない。新聞各紙が大きく取り上げたように(読売新聞は一面トップ)、メディア関係者の株取引は、内容によっては、十分大きなニュースになるべき重大事なのだ。

ふぐ無許可販売の報道前に
築地魚市場株を信用売り

 調査報告では、明らかに疑わしい取引がいくつか取り上げられていた。

 例えば、ある職員は昨年、「築地魚市場」株を計2万9000株も信用売りしていたという。信用売りは、株取引に慣れていて、よほどの情報ないし相場観がないと、個人投資家が気楽に行なうような取引ではない。しかも、その取引の少し前に「築地の業者がふぐの無許可販売」という報道がNHK社内の情報端末に出稿されていたことが明らかになっている。

 また、別の職員は、伊藤ハムのグループ会社を巡る不祥事がNHKで放送される直前に「伊藤ハム」株を売っていたという。さらに、これはやや旧聞に属するが、東京地検が証券取引法違反の疑いでライブドアの家宅捜索に乗り出した06年1月16日に、報道局社会部の記者が、フジテレビ株を売却していた事実も明らかにされた。NHKが特報として家宅捜索を報じたのは、その日の午後4時だ。

 いずれのケースでも当該の職員や記者は第三者委員会に対して「たまたま」と説明しているようで、委員会もそれ以上追及していないようだが、それが本当ならば「たいした、たまたま」である。