CO2(二酸化炭素)などの温室効果ガスについて、拘束力のある削減目標を一部の先進諸国に課した京都議定書は、大変な“不平等条約”である。目標達成のために、日本の産業界は、世界随一の製造技術・設備を持ちながら、排出権購入のコスト負担を強いられて競争力を低下させつつあるという。

 そこで注意したいのが、ポスト京都を論じる7月の洞爺湖サミットだ。このサミットでは、京都議定書を採択した「地球温暖化防止京都会議」(国連気候変動枠組み条約締約国会議、以下は京都会議)と同様、再び、日本に議長国の役割が巡って来る。準備不足のまま会議に突入し、大盤振る舞いによって成功を収めようとすると、京都会議と同じ轍を踏みかねない。ポスト京都は、2050年までという長丁場の枠組みとなるだけに、福田康夫政権は、周到に戦略を構築してサミットに臨む責任がある。

実は日本は
温暖化ガス排出量の優等生

 昨年2月、最優秀ドキュメンタリー部門など2部門で第79回アカデミー賞に輝いた映画『不都合な真実』の中で、主演のアルバート・ゴア米元副大統領が明かした衝撃的なデータをご記憶の読者もいるのではないだろうか。

 そのデータは米エネルギー省の調査によるもので、日本の「地球温暖化への寄与度」は、わずか3.7%と、米国の30.3%、欧州の27.7%、ロシアの13.7%などに比べて格段に小さい。世界のGDPに占める日本の割合は約1割。つまり、日本は米国や欧州の半分に匹敵する経済規模を持ちながら、温暖化ガスの排出量は米国、欧州の1~2割に過ぎないというのだ。このデータは、日本の優等生ぶりをくっきりと浮き彫りにした。

 ゴア元副大統領は映画の中で、自動車の燃費効率の向上がCO2の排出削減に役立つことも指摘した。この面で、日本が現在、1リットルあたり19キロメートル以上という世界で最も効率的な燃費の達成を義務付けていることを紹介したうえで、2005年の2月から9ヵ月の間に、株式の時価総額で、トヨタ自動車が11.86%、ホンダが3.28%それぞれ上昇したのに対し、米フォードが33.20%、ゼネラル・モータースが38.84%下落した事実を示して、日本企業が優れた技術を開発することで、収益的にも成功してきたと強調した。

 ところが、日本企業は、温暖化ガスの排出削減が十分でなかったとして、海外から排出権を購入する必要に迫られている。3月9日付けの日本経済新聞は、電気事業連合会や日本鉄鋼連盟が、今後、海外から取得するCO2の見込み額を日本経団連に報告したと報じた。それらをまとめると、産業界は、京都議定書の温暖化ガス削減目標を達成するため、2012年までの5年間に、合計で2億~3億トンあまりの排出権の購入が必要と予測している。そして、新日鉄の試算によると、それらのコストは、最低でも5000億円と巨額になるという。

 別の報道によれば、こうした日本の産業界の足許をみて、海外ではすでに排出権を買い占める動きが活発になっており、実際に産業界が負担する費用は、その何倍にも膨らんだとしておかしくないとの見方もある。

 なぜ、あまり温暖化ガスを出さない日本の企業が、そんな理不尽なコスト負担を強いられる破目に陥ったのだろうか。