代々木公園を東側に望む代々木4・5丁目の一帯は、知る人ぞ知る高級住宅地といえるかも知れない。明治後期からの邸宅地が散在するこの一角は、純粋な住宅地として発展したために、多くの人の目にさらされることがない。また、名前だけを同じくする代々木駅前の喧燥が、この街のイメージを見誤らせるのだ。その結果、広大な公園を庭に見立てる住宅地は、静寂を破られることもなく存在している。

山手線に横たわる広大な緑地
代々木公園

広大な緑地公園が静寂を守る街「代々木4・5丁目」
市民の憩いの場「代々木公園」

 広大な緑を借景とする高級住宅地ここ数十年の間に定着してきた「代々木=予備校」のイメージを振り切ることができないと、この憧憬の街を見落とすことになりかねない。住所の表記こそ同じではあるが、1丁目から5丁目まである代々木には、6つの最寄りの駅とそれぞれの文化圏がある。そして、代々木4・5丁目は、古くから高級住宅地としての性格が色濃い。

 東側を公園、西側を山手通り、北を西参道で囲まれたこの地域は、JRの代々木駅とは無関係と考えていい。歩いて行くには南新宿を通る長い坂を降りきり、また登るという苦労を要するが、誰もそんなことはしない。

 4丁目の住人は自分の住む場所を「参宮橋」と駅の名で呼ぶ。5丁目の「代々木八幡」も同様である。そしてこのエリアは、公園との境界がおおむね最も低い位置にあるために、代々木公園の緑を借景とすることができるのである。

 この緑の存在が、もともと一帯を高級住宅地たらしめていたといえるだろう。宅地が形成された明治時代以来、現在の公園は一貫して東京には貴重な自然であり続けた。そのために、小さな起状が多い代々木の中でも、見通しの良い場所に大邸宅が好んで建てられたのである。

 また、山手線との間に横たわる広大な緑地は、この一帯を商業地にさせなかった。逆説的ではあるが、住宅地以外の用途に適さないがために、環境が守られたのである。こうして、代々木駅、新宿駅に近い1~3丁目とは違ったアメニティが形成されていくことになった。

  表通りから一歩内部に入っていくと、渋谷とは信じられないほどの静かな住宅地が広がる。いや、大山町や神山町と同様の雰囲気をもつ、渋谷区独特の住宅地というほうが正確かもしれない。しかも、小高い坂の上からは、さえぎるものとないパークビューが展開する分、こちらのほうが得している。