引き継ぐ人がいないから、会社を売却したい──後継者難に悩む中小企業の経営者にとって、M&Aという選択肢も見えてきた。だが、「売れる会社」作りも、また大変だ。

事業承継のタイプ別対処法

  体調を崩したり、高齢になったり──経営者が事業の承継を考え始めるきっかけとなるのは、自らの衰えを感じたときが多い。だが、準備は早いに越したことはない。その必要性は、経営者が急に亡くなってしまった場合を想像すれば、分かるはずだ。

 事業承継とは、自らが手掛ける事業における地位や財産などを後継者に引き継がせること。いわば「事業の相続」であり、一般的な個人の相続と同様、問題になってくるのは「人」「モノ」「時間」という3つの要素。誰に引き継がせるか、何を引き継がせるか、いつ引き継がせるか……という3点である。

 この3要素のうち、ここでは最も深刻な人、つまり後継者の問題について詳しく触れよう。日本では年間30万社前後の中小企業が廃業する。やや古いデータになるが、「中小企業庁白書2006年版」にある三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査結果では、廃業を検討している企業の24.4%が「後継者がいない」ことを理由に挙げている。

 後継者を誰にするのか、いない場合はどうするのか。以下、ケース別に見てみよう。

<1>後継者が妻や子供、子供の配偶者
 事業承継が円滑に進む確率が高いケース。最も多いパターンであり、かつ、承継への準備期間が長く取れるため、後継者として社内外で認知してもらいやすい。また、後継者本人も、早くから自覚を持って“修業”を行える。
 また、事業承継の場合にできれば避けたい事業の所有と経営の分離を避けられる可能性が高い。
 対等の地位にある後継者候補が複数いる場合、トラブルが起きやすいが、承継する会社に事業部門が複数あれば、分社化して、それぞれに後継者を充てるという道もある。税務上の一定の用件を満たせば、新会社への資産の移転が簿価で行え、課税が繰り延べられるというメリットもある。
 ただ、会社分割の方法を誤ると想定外の課税が発生するので、この手法は必ず専門家のアドバイスのもとで行うべきだ。

<2>後継者が兄弟姉妹などの親族
 妻子や婿・嫁以外の親族に事業を承継させる場合、永続的な承継を前提とした「完全移譲型」と、まだ幼い実子などが成長するまで一時的に事業を託す「ワンポイントリリーフ型」の2種類がある。
 ワンポイントリリーフ型では、準備をしっかりしておかないと、兄弟から実子などへの2次移譲がうまく行われず、リリーフ役に事業を乗っ取られてしまうリスクがある。また、リリーフ役には資産や資質の面での裏付け、言い換えれば承継者としての正当性が不足していることも多く、取引先や従業員との関係の維持に、一時的にせよ、問題が出る可能性も考えておくべきだ。
 一方、完全移譲型の最大のポイントは、承継者が事業をどのように買い取るか、にある。すぐには事業全体を買い取れないケースが多く、買い取りは年数をかけて実行される。この場合、事業を移譲する側の遺族は、所有する事業のリスクを引き続き負いながら、事業を移譲して得られる資金が全額は回収できない状況となる。