トマ・ピケティの『21世紀の資本』が好評である。分厚い学術書であるが、ものすごく売れている。kindleの英訳版を読んでいたところ、訳者山形浩生さんから、みすず書房が出版した日本語訳をいただいたので、それも読んでみた。

 タイトルからマルクスの資本論の再来を彷彿させるが、ピケティ自身がいうとおり本書はマルクス経済学ではなく、標準的な成長理論を使った、ごくふつうの経済学である。

歴史書感覚で読める

 700ページを超える本で字も小さいが、経済学の専門書にしばしば登場し読者を遠ざける数式の羅列もなく、歴史書の感覚で読める。ただし、日本の歴史書と異なり、ストーリーはデータに基づくモノだ。筆者は歴史が好きなのだが、従来の歴史書はストーリーがまずありきでデータがほとんどないのが不満だったが、こうしたデータ満載の歴史書ならいくらでも読みたいものだ。

 ちなみに、紙ではないkindle版のいいところは、図表について資料リンクが張られていることだ。そこには、きれいな図表がすべてある。本稿のようなコラムでは、それを引用できるので、かなり便利だ。

 筆者は図表マニアなので、本文を読むより先に図表を見て、その本文を推測するのが好きだ。資料リンクの図は250枚以上もあり、それらを見ているだけで、わくわくしてしまう。この資料リンクのおかげで、本文を読むスピードが速まったのはいうまでもない。この資料リンク(日本語版もある)とともに、本文を読むと一層理解が深まるだろう。

 本書は、大量の歴史データの他にも、いたるところで哲学、文学などの引用があり、理想の政治からの政策提言もある。ケインズによれば、経済学者・エコノミストは(ある程度)数学者、政治家、歴史家、哲学者でなければならないというが、数学専攻の後で経済学に転じたピケティ氏が、歴史、哲学を本書で論じ、将来は政治家になって、格差是正のために奔走している姿を想像したくなる。