カシオ計算機社長 樫尾和雄
撮影:住友一俊

 ピンチの後にはチャンスがくる、というのは誤りだ。ピンチ、危機のときこそ、チャンスは取りにいかねばならない。

 デジタルカメラの販売不振・価格下落が主要因となって、今期業績は最終利益15億円へと、黒字ギリギリまで下方修正した。だが、攻撃は最大の防御であり、手をこまねいているつもりはない。

  2月までに、社運を賭けた新商品(超高速の連写機能、動画修正機能付きデジカメ)を投入した。これまでも、液晶モニタータイプ、薄型カードタイプなどでコンパクトデジカメの歴史を塗り替えてきたが、この新商品が「デジカメ第三世代」となることは間違いない。

 企業の競争力は、言うまでもなく商品力によるところが大きいが、現下のような厳しい経済環境では、不採算事業の撤退をも厭わない「経営者の決断力」と、なんとしても事業を立て直そうとする「部門責任者の執行能力」が問われることになるだろう。

 昨年6月、執行役員を10人増員の19人とし、執行体制をより強化した。これで、創業4兄弟の子息4人すべてが役員へ昇格したが、これで禅譲体制が整ったとの指摘は当たらない。ポストが人を育てるといわれるが、実績がなくても期待値が高い者を昇格させた。当然のことながら、結果が伴わなければ降格人事も行なう。

 社長在任期間は20年を超えたが、私はこの難局から逃げるわけにはいかないし、次期経営者像として、「世襲にとらわれず、事業に精通した人」という考えを変えたわけではない。(談)

(聞き手:『週刊ダイヤモンド』編集部 浅島亮子)