マイナンバ―法(「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」)が2013年5月に公布された。法の施行は2016年1月となっており、まだ先のように思えるが、企業が対応する時間を考えると、実は残された時間はあまりない。

日本の財政バランスの悪化は深刻であり、看過できない状況になっている。その場合、消費税増税も1つの選択肢ではあるが、少なくとも不公平感が払拭されているということが大前提である。また金融については、国際化の下での顧客管理のあり方が内外で求められている。その点ではマイナンバー制のは果たす役割は大きい。そこでここでは、マイナンバー制の概要と課題について考えてみたい。

マイナンバー制とは何か

対応へ残された時間少ないマイナンバー制<br />――野村総研未来創発センター主席研究員 和田哲郎わだ・てつろう
野村総合研究所未来創発センター制度戦略研究室主席研究員。1954年東京生まれ。78年3月横浜国立大学経済学部卒、同年4月日本銀行入行、91年信用機構局調査役、金融機関の破綻処理に明け暮れる。2000年前橋支店長、03年政策委員会室審議役、日銀の機構改革に取り組む。06年預金保険機構預金保険部長、のち参与、預金カットを伴う金融機関の破綻処理の研究に取り組む。10年から野村総合研究所。専門はマクロ経済、金融。

 マイナンバー制とは、国民一人ひとりに、12桁(法人は13桁)の唯一のナンバーが割り振られ、例えば社会保障の給付、税金等の申告の際に、当該ナンバーの提示等により本人であることが確認され、円滑な事務継続が行われるというものである。

 ただ、制度の安定的運行を図るため、当面取り扱いは社会保障、税金に限定する(医療、教育等は追って、実施予定)。また、預金取扱金融機関が取り扱う預金は、現在対象外となっているが、今後制度改正を行い、他商品に遅れて付番が行われると予想される。

 マイナンバー制度の実現は、グリーンカード制度の挫折から約30年振りの快挙である。

 簡単にその経緯を振り返ってみよう。1978年、大平政権が発足した。同総理は頃来(けいらい)の財政赤字を憂い、一般消費税の導入について検討を開始した。また、「トーゴーサン」「クロヨン」(※)と言われるような不公平を是正するため、グリーンカード(少額貯蓄等利用者カード)の導入についても検討に着手した。これは、カード番号を用いて預貯金などの各非課税枠を名寄せし、非課税貯蓄のチェック等を行うというものであり、大半の与野党の賛成により成立した(1980年)。

(※)税務署がどの程度、所得を把握しているかを象徴的に表現した言葉。捕捉率は業種によって異なり、給与所得者は約9割、自営業者は約6割、農業、林水産業は約4割であることを指して「クロヨン(9・6・4)」という。給与所得者約10割、自営業者約5割、農林水産業者約3割であるという見方から「トーゴーサン(10・5・3)」という語も生まれた。