赤羽雄二氏は、マッキンゼーで14年間活躍するなかで、同社のソウルオフィスをゼロから立ち上げ、120名強に成長させる原動力となるとともに、韓国企業、特にLGグループの世界的な躍進を支えた人物だ。1人で7~10のプロジェクトを同時並行的に担当するなどの修羅場をくぐり、独立後の現在も複数の大企業の経営改革を進めつつ、10社を超えるベンチャーの経営支援を行ないながら年間50回を超える講演・ワークショップをこなしている。
今回はその驚異的な仕事量を実現する仕事術のうち、「メール」「会議」「資料作成」それぞれの秘訣を明かしてもらう。

全体像を上司に確認しつつ進める

 書類・資料の作成に時間がかかるのは、本人の問題も大きいが、上司が何を求めているのかはっきり言わない、言えないことも原因だ。さらに、できない部下が数年たつとできない上司になってしまうから組織文化にもなってしまう。

 新著の『速さは全てを解決する』で「全体像がポイント」と書いたが、上司の指示で仕事を進める際に、全体像をあまり確認できずに進めざるを得ないことがよくある。上司の指示が曖昧ではっきりしない。指示の内容が曖昧だったり矛盾したりしていても、聞き返すと不機嫌になる。不機嫌にならないまでも、辻褄の合わないところを確認しようとすると、そのたびに言うことが微妙に変わっている。

 何度か聞き返しても、指示が明確になることはないし、面倒くさがられていると感じるので、確認せずに「まずは動くしかないか」と思うようになってはいないか。こういう状況で進めても、当然うまくいかない。上司は明確に指示が出せなくても、部下の仕事に対して善し悪しを言う立場にある。部下よりは格段に情報を持っていることが普通なので、新たな観点からケチをつけることも容易にできてしまう。「上司は明確なゴールイメージを持って、的確な指示を出さなければならない」とそもそも思っていないので、部下を宙ぶらりんの状況においても平気なのだ。逆にそのほうが部下の自主性が尊重され、育つと勘違いしている上司も少なくない。

 なぜこういう馬鹿げたことが起きるのか。日本の多くの企業はまだまだ年功序列が色濃く残っており、自分より何年か先輩の中でややまともな人が上司になることが多い。ただ、残念ながら部下をどう育て、どういう指示を出してより大きな成果を出させるか、体系的な教育はほとんどない。一流企業、大企業と言われる会社でもそうだ。管理職研修は当然やっているが、部下育成の詳細に踏み込んだ実践的トレーニングはまずない。

 これでは、せっかく書類や資料を作成しても、結局やり直しさせられてしまう。スピードアップを目指すためには絶対に避けないといけない。となると、指示を受ける側の部下の賢い対応としては、「ご指示に対してこういう全体像で進めますが、よろしいでしょうか」と初めに確認し、途中で何度も確認しながら仕上げていくしかない。

 自分が考えたアウトプットのイメージをできるだけ具体的に書いて、上司とすり合わせしておく。次に説明する、本来は上司が部下に実践する「アウトプットイメージ作成アプローチ」を逆に行なうやり方だ。

 たとえば30ページ程度の企画書を作成する場合、表紙、目次を書き、実際にページ番号もふって、各ページに何を書くのかメッセージとチャートイメージ(折れ線グラフや円グラフ、インタビューコメント等)をざっと書く。できるだけメッセージを明確に書いて、パワーポイントに落としてから説明する。『ゼロ秒思考』で紹介したやり方で進めれば、ほんの数日で形は整えられるので時間を無駄にすることはない。

 これを上司に見せ、イメージのズレがないかを確認する。締切までに4、5回以上進捗報告をし、上司の期待とのズレや上司の期待自体のブレが起きていないかを確認する。途中での報告、進捗確認を嫌う上司もたまにいるが、そこは状況を見計らって報告し、すり合わせをするしか防御策はない。