ビール業界の覇権争いが過熱している。1~9月までの第3四半期を終えた時点で、首位アサヒビールのシェアが37.5%、2位のキリンビールが37.0%、わずか0.5ポイント差のデッドヒートだ。

 もっとも、昨年の第3四半期にはキリンが0.2ポイント差まで詰め寄ったにも関わらず、アサヒが逃げ切った。第4四半期は年末、つまりビール系飲料の最需要期であり、割安な発泡酒、新ジャンル(第3のビール)よりも価格の高いビールが売れる傾向が強い。ビール市場で半分のシェアを握る「スーパードライ」を擁するアサヒが今年も有利と見られていた。

 ところが、ここに来て雲行きが怪しくなっている。キリンが10月22日に発売した新商品「キリン ストロングセブン」が発売から16日間で販売量100万ケースを超える予想外のヒットとなっているからだ。

 このストロングセブン、名前の通りアルコール度数が「7度」で、一般のビール系飲料(5度前後)より高い。しかも、新ジャンルで価格も安く、手っ取り早く酔える。

 アサヒとキリンの第3四半期末における差は、販売量換算では約190万ケース。ストロングセブンだけで、アサヒとの差を詰められる計算になるため、首位奪還に向けたキリンの鼻息は荒い。

 一般にビール業界の大型商品は、夏の需要期をにらんで春先に発売されるのが通例。キリンは、10月にストロングセブンだけでなく、9月に新ジャンルで「スムース」も発売しており、異例の新商品攻勢をかけてアサヒを猛追している構図だ。

 思い起こせば、2年前--06年の第3四半期を終えた時点--には、キリンはアサヒに265万ケースの差をつけてトップに立っていた。悲願の首位奪還は目前だった。

 そこでアサヒは猛反撃に転じる。10月に新ジャンルの「極旨」、11月に発泡酒の「贅沢日和」を投入、第4四半期に一気に逆転してしまったのだ。いわば「禁じ手」の新商品攻勢、先に仕掛けたのはアサヒだったわけで、今回は立場が正反対になっている。じつに、運命の皮肉というしかない。

 大手マーケティング会社の調査では、コンビニ、スーパー、酒ディスカウンターにおけるシェアは、軒並みキリンがアサヒを15ポイント前後上回っている。

 問題は、調査対象外の料飲店・一般酒店でアサヒがどこまで巻き返すか、だ。ビール比率が圧倒的に高い料飲店、品揃えが上位ブランドに集中する一般酒店は市場の3分の1を占めている。この分野ではアサヒの優位は揺らがない。

 受けて立つアサヒも、これまで弱点だった発泡酒、新ジャンルに今年は「クリアアサヒ」「スタイルフリー」というヒット商品を擁しており、第4四半期はまさしくアサヒとキリンの総力戦。ちなみに、キリンが勝てば8年ぶりの首位奪還となる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 小出康成)