「The Kremlin on the Ohio」(オハイオのクレムリン=旧ロシア帝国の宮殿)とまで呼ばれた強い自前主義の企業が、「NIH」(not invented here:自社開発にこだわる傾向)から「PFE」(proudly found elsewhere:堂々と社外から見出す)に大転換――「コネクト・アンド・デベロップ」という戦略実行のため、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)が行った改革を表した言葉だ。

 コネクト・アンド・デベロップとは、社内外とのコネクションを活用して、想定を越えた技術を開発することでイノベーションを起こそうというアプローチである。第三回でイノベーション・ネットという社内システムについて紹介したが、今回は社外に延びるP&Gのエキスパート・プラットフォームについて議論したい。

社外リソースの活用で
R&D効率を6割改善

 1990年代末のP&Gは、社内に閉じたR&Dの限界に直面していた。R&D効率の低下に悩んでいたのである。そこで、2000年に最高経営責任者となったアラン G.ラフレイは、イノベーションの半分を社外調達するという目標を掲げた(P&Gのラリー・ヒューストン,ナビル・サッカブ著「P&G:コネクト・アンド・ディベロップ戦略」ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー 2006 年8 月号に詳しい)

 しかし、これは単なるアウトソーシングではない。P&G社内の人材と社外に150万人いると考えられる人材を結び付けて、新たな製品を世に送り出すということである。こうして世界中のリソースから顧客ニーズに合致した技術を獲得するようになった効果は劇的だ。2000年に改革に着手してから5年ほどで、社外で開発された要素を含む新製品は15%から35%に上昇し(2007年には50%を超えた)、R&D効率は6割近くも改善したのである。