20億円の超高級マンションと
2人で600円の食堂が隣り合う現実

 中国出張から戻ってきた。今年に入ってから最初の中国出張なので、その点描をご報告したい。

 ご存じのように、中国人の多くは餃子が好きだ。しかし、上海では水餃子よりも焼き餃子が好まれる。「鍋貼(クオ ティ)」と呼ばれる上海の焼き餃子は日本のそれより皮が厚く、餡の肉汁もたっぷりある。その鍋貼に牛肉春雨スープというのは小さい頃の私にとっては贅沢な外食だった。

 去年の年末頃、上海に出張していたときから、どうしたわけか、この鍋貼と牛肉春雨スープに抑えきれないほどの郷愁を覚え、食べたいと思っていた。今回はたまたまメディアのインタビューを受けたあと、すこし時間が作れたので、日本帰りの上海の友人と一緒にそれに挑戦した。

中国で実感した、忍び寄る景気減速と格差の現実膨張を続けてきた上海にも景気減速の影

 上海の高級住宅地にある鍋貼専門店に入り、念願の鍋貼と牛肉春雨スープを注文した。味はもちろん、見事に裏切られた。郷愁はやはり記憶に温存すべきものだと改めて認識した。2人で31元(約600円)の夕食を済ませたあと、鍋貼専門店を出た。「民工(出稼ぎ労働者)なみの支出だった」と思わず感想を述べた。

 この店の隣は不動産仲介会社の店舗だ。大きな窓ガラスに物件の案内がたくさん貼られている。それにふっと目をやると、日本円に換算すれば1億円以下のものは見当たらなかった。一番高いのは9800万元(20億円近く)で売り出した中古マンションだ。