耐震性能に比べて、意外と注目度が低い個人住宅の省エネ性能。省エネはやるべきことが多くて難しそうに思えるが、実は窓・天井・床下の断熱工事だけで夏冬の快適度が劇的に変わる。

住宅リフォームコンサルタント 尾間 紫(おま ゆかり)氏
1級建築士、インテリアコーディネーター。30年近く住宅のリフォームやインテリア、プラン設計、工事に携わってきた経験から、本当に満足のいくリフォームは、過去を繕うものではなく、未来の暮らしを創る「リライフのリフォーム」を提唱。消費者と事業者をつなぐ架け橋となるべく、事業者向けの人材育成研修や講演の他、各種メディアや講演会などを通じて消費者への情報発信にも積極的に携わる。

 住宅は建てた年代によって性能が大きく異なる。中でも耐震性能と省エネ性能は建物の資産価値はもちろん、人命にも関わる重要な性能だ。

 最新の耐震性能は1981年6月1日より施行された建築基準法による耐震基準に基づく。基準は強制力を伴っていることから、国土交通省の調べでは住宅の耐震化率は2008年に約8割に達している。いくつもの震災の教訓から、建物の耐震性能は建てられた年によって異なること、また現行の基準以下の建物への耐震改修の必要性も広く理解されるようになってきた。

 一方で、省エネルギー基準は99年に導入されたが「この基準は、今のところ一般住宅には法的拘束力がないので、99年以降に建てられた住宅であっても省エネ性能が低いものがある」と、1級建築士で住宅リフォームコンサルタントの尾間紫氏は指摘する。

 省エネ基準をひと言で表せば、外気の影響をどれくらい受けにくいかということである。

「省エネ性能が高い住宅は、夏は少しエアコンをつけるだけで涼しくなり、冬は少し暖房を入れるだけで暖かく過ごせます。夏は1階よりも2階が明らかに暑いとか家屋内で大きな温度差がある家は、省エネ性能の中でも特に断熱性能が低いことを表しています」

 そこで省エネ性能を高めるために行うリフォームが、エコリフォームである。

リフォームの目的は
健康な生活

 リフォームには外観や内装、水回りを新築同様によみがえらせるイメージが強いが、見た目が良くなっても、夏暑くて冬寒い家のままでは、お金を掛ける意味がない。「快適に暮らすことを目指すことが本当のリフォーム」だと尾間氏は言う。

「エコリフォームと聞くと、難しいことのようですが、家の中が暑過ぎる、もしくは寒過ぎるという問題を解決して快適に過ごすことを目指せば、自然にエアコンや暖房器具の使用量が減り省エネになります。夏場の熱中症や冬場のヒートショックの問題も解決されます。それは家族が健康に暮らせることでもあるので、エコリフォームとは、いわば『健康リフォーム』ということなのです」

 エコリフォームには、大きく分けて、家全体の断熱性能を高める方法と、従来の住宅設備を節水型トイレや高効率給湯器など省エネ性能が高い設備に換える方法がある。

「パフォーマンスがいいのは、断熱性能を高める断熱リフォームです。1~2日の工事で完了し、その日から効果が体感できます」

 断熱メーカーの試験でも、効果は明確に表れている。発泡ウレタンを吹き付けて断熱する方法で、屋根裏収納を断熱リフォームしたところ、夏場38.5度が33.5度まで5度も下がったという。しかし冬はもっと苛烈だ。夏の外気温33度、室内28度の場合は5度の違いしかないが、冬は外気温0度、室内20度とすれば20度もの差がある。寒い外気の影響を家の中に及ぼさない断熱リフォームが威力を発揮するわけだ。加えて夏場であれば暑い日差しを遮る遮熱も効果的。窓辺にゴーヤのような植物をはわせる緑のカーテンや、外側にひさしを付けるといったことでも遮熱効果が得られる。

 エコリフォームをエネルギーの面から見れば「自然の力をコントロールすること(パッシブデザイン)と、機械の力を利用すること(アクティブデザイン)」(尾間氏)とも考えられる。前者は断熱、風通し、遮熱、冬であれば日だまりを作って太陽の熱を暖房に生かすといった方法がある。後者は太陽光発電や電気と湯を一緒に作り出すエネファームなどが含まれる。