米国富裕層のすさまじい消費の実態を描いた『ザ・ニュー・リッチ』(ロバート・フランク著、ダイヤモンド社)がおもしろい。「米国の上げ潮政策とは、こういうことか」と実感されてくる。

 米国ではこの10年で富裕層の世帯数が2倍以上に急増した。世界中をうねる巨大な投資資金の奔流が米金融市場に流れ込み、即席起業家、企業経営者、株主の資産をふくれ上がらせた。

 新富裕層はお互いの財力を誇示し合うように自家用ジェット機、超高級車、大型クルーザーなどを続々購入する。クルーザー人気は船室係や船長など乗務員の賃金を高騰させた。また、富裕層の急増は執事ブームを起こし、執事養成学校の優秀な卒業生の大半は、初任給(年収)7万5000~12万ドルを得られるという。

 また、同書掲載の匿名の富裕家族の年間支出明細には、「庭とプールの維持費」14万ドル、「美容・サロン・スパ」20万ドル(うちマッサージ代8万ドル)、「自宅での接待」200万ドルなどが記載されている。そういった支出が「トリクルダウン効果」(しずくが垂れ落ちるような効果)をもたらし、雇用を創出し、賃金上昇を引き起こしていた。

 しかし、オーストラリアのジャーナリスト、ピーター・ハーチャーは 「『上げ潮はすべての船を持ち上げる』というスローガンがあった。しかし、実際に全員が新しい富を同率で勝ちとったわけではないのだから、いかにこのスローガンが虚しいかわかるだろう」(『検証グリーンスパン』)と上げ潮政策を批判している。

 『ザ・ニュー・リッチ』の著者も経済格差に疑問を持っているが、民主党の世論調査担当者は「有権者が重視しているのは、ミドルクラスの生活水準を上げることであって、トップ1%を罰することではない」と述べているという。野党がそのような分析をしているあいだは、経済格差問題は大きな政治的うねりにはなりにくい。

 なお、同書によれば、資産1000万ドル以上の米資産家の「富の源泉」は、60%以上が「株式」または「株式売却」、23%は「企業幹部職」(ストックオプションを含む)だった。株価上昇が資産家の数を増殖させてきたことがわかる。ちなみに、2006年末時点の米国民1人当たりの実質不動産資産は7万8500ドルだが、実質金融資産は18万6000ドルと倍以上ある。

 世界経済にとっては、サブプライム問題に陥った米低中所得者層の消費の行方も気になるが、より比率が大きい富裕層の消費に大きなインパクトを与える米株式市場の動向も非常に重要である。
(東短リサーチ取締役 加藤 出)

※週刊ダイヤモンド2007年11月3日号掲載分