漁獲量8割減の町を救った“大トロあじ”の奇跡どんちっちアジ

 日本各地のブランド魚の名前といえば、産地の名前がついていることが多い。

 ところが産地の名前がついていないばかりか、いったいなぜ? という名前がついたブランド魚がいる。

 どんちっちアジ。

 なんだかかわいらしい名前のブランドアジは、全国トップクラスの脂の乗りを誇る、「アジの大トロ」、肉でいうなら「アジの松阪牛」ともういうべき、とんでもないアジだった。

漁獲量が10年で8割強も激減!
水産の町を襲った大ピンチ

「どんちっちアジ」のふるさとは、島根県西部に位置する浜田市。山陰有数の漁獲高を誇り、国が重要漁港として指定する特定第3種漁港・浜田漁港を有する。暖かい対馬海流と島根冷水域といわれる深海の冷たく栄養に富んだ海水が混じりあい、魚のエサとなるプランクトンが多く発生する島根県西部沖で育まれた、豊かな海の幸が水揚げされている。

 ブランドアジ誕生のきっかけは、そんな浜田における未曾有のピンチ。予期せぬ「漁獲量の激減」だった。平成2年の約19万8000トンをピークに、大量に漁獲されていたイワシがパタリと獲れなくなったことからはじまって、平成13年には約3万4000トンまで激減。基幹産業が水産の町・浜田に大打撃を与えた。

 資源が枯渇するなか、魚価向上と地元水産業の活性化を目標に、全国に通用する「浜田ブランド」確立の声が上がった。

 これまで浜田ではブランド魚がないだけでなく、そもそも、その「名前」が表に出ることがなかった。

「魚そのものは高い評価を得ていたのですが、おおむね市場では『山陰産』や、『島根県産』として表示されていたんです」

 こう振り返るのは、当時、浜田市水産課課長であり、現在は浜田魚商協同組合事務局長の石井信孝さん。

 おりしも平成15年に同市で開催が予定されていた天皇皇后両陛下がご臨席される「第23回全国豊かな海づくり大会」にあたって目玉を作る意味でも、ブランド化に取り組むべく、平成14年、浜田市内の水産関係団体や、行政、試験研究機関などからなる「浜田市水産物ブランド化戦略会議」が発足した。

 戦略会議では、ブランド化を目指す魚として、浜田を代表する「アジ」、「ノドグロ」「カレイ」の3つを選んだ。

 なかでも、注目されたのが徐々に漁獲量を伸ばしていたのがアジだった。