前回、国会で審議中の安保関連法案について自分なりに考え方を整理してみたところ、(私は政権の経済運営にはかなり批判的であるにも拘らず)「安倍政権の犬!」といった厳しい批判をいただく一方で、「必要性が分かった」という肯定的な意見もいただきました。その中で、「ではなぜ憲法学者は違憲と判断したのか?」という疑問も寄せられましたので、今回はその問題について考えてみたいと思います。

憲法第9条を扱った最高裁判例は
平成以降、わずか2件という現実

安保法制を違憲とした憲法学者たちの現実知らずなぜ憲法学者は安保法制を違憲と断じたのか?

前回書いたように、少なくとも日本が直面する安全保障の現実からは、安保関連法案の必要性は明らかではないかと個人的には思います。それにも拘らず憲法学者が違憲と断ずる理由を自分なりに推測してみました。

 法律学の世界では憲法、特に第9条を巡る研究や論争が、実際に起きている紛争をいかに裁くか、権利のぶつかり合いをいかに解決するかといった現実を対象にしたものになっていません。そのため、条文の教条的な解釈の中で研究者の主観的な思いや自制が優先してしまっているからではないでしょうか。

 例えば民法、会社法、税法といった法律に関する法律学の研究は、現実に発生した争いを裁く上で、法律の条文の解釈は如何にあるべきかというアプローチが中心になっていると言えます。

 ところが、憲法第81条(「最高裁判所は一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」)が規定するように、有権的な憲法解釈を行なう権限を有するのは最高裁判所であるにも拘らず、特に最近は、最高裁が判決の中で憲法解釈を行なった事例が非常に少ないのです。