国内大手メーカーに勤める丸山健太は、あるきっかけで中国製造工場の建て直しを命じられる。企業改革どころかリーダーとしての経験もない健太だが、周囲のサポートを得ながら難局と向き合い、やがて3つのミッションを通して一人前のリーダーへと成長していく――。海外における企業再生や買収・事業統合等の現場をリアルに描いたビジネス小説『プロフェッショナル・リーダー』が発売された。本連載では、同書の「ミッション1」の全文を9回に分けて掲載する(毎週火曜日と金曜日に更新)。

中国の赤字工場を再生せよ<br />[第6話]課題の優先順位づけ
〈前回までのあらすじ〉総合電機メーカー・小城山(おぎやま)製作所に勤める丸山健太は、ある日、中国地方政府との合弁会社である小城山上海電機への出向を命じられる。総経理スティーブの右腕となって業績低迷に喘ぐ同社を建て直すのがミッションだ。顧問の瀬戸と橋谷麻理の協力を得て生産品質の改善に目処をつけた健太は、新製品開発の加速と調達コストの削減に着手する。

資金繰りの危機

「私は別の調査があるから、ウェイさんへの説明はチョウさんと健太に任せるわ」

 その日の午後、麻理はそう言って、オフィスの反対側に向かって廊下を歩いて行った。

 チョウは、「この件は、まず私からウェイさんに話してみるよ。結構刺激的な内容だから、君が行くと火に油を注ぎかねない」と健太に言って、1人でウェイとの打ち合わせに向かった。

 1人残された健太は、書きかけの報告書をまとめるために、オフィス代わりに使っている会議室で作業を続けることにした。

 報告内容が変更されたこともあって、健太が報告書を書き上げたのは夜8時過ぎだった。帰り支度を済ませて会議室を出た健太は、麻理の所在が気になって探してみた。するとコントローラー(CFOを補佐する経理責任者)の鈴木のオフィスで、鈴木と麻理が何やら神妙な顔をしてPC画面を覗き込んでいた。健太はドアの隙間から声をかけようとしたが、2人のあまりに真剣な表情に気後れし、黙ってその場を後にした。


 2日後の金曜日──。朝7時に健太が出社すると、すでに麻理が出社しており、誰かと電話で話し込んでいた。昨晩にも増して険しい表情で、声のトーンも低い。

「……はい。やはり仰る通りでした。想定以上に緊急性が高そうです。……はい。まだ誰ともシェアしていません。健太さんには伝えてもよいでしょうか。……わかりました」

 麻理が電話を終えるのを待って、健太は話しかけた。

「……おはよう。何やら深刻そうだね」