去る7月1日に社長交代の人事が行われた日本マイクロソフトで、2008年から7年以上にわたり社長を務め、代表執行役 会長に就任した樋口泰行氏。
「愚直」論』など過去の著作では内気で話し下手な性格を自認してきた樋口氏だが、そんな彼のメッセージを社内外に伝えるスペシャリストとして活躍してきたのが、同社のエバンジェリストである西脇資哲氏だ。
プレゼンターとしての西脇氏の評価は、IT業界内ではつねにトップクラスで、最近では新著『プレゼンは「目線」で決まる』でも注目を集めている。

愚直な情熱を持った経営トップと、それを伝えることに徹してきた部下――絶妙なコンビネーションを見せてきた二人のスペシャル対談をお送りする。
(聞き手・構成:藤田 悠/写真撮影:宇佐見利明)

社長の愚直すぎる熱意を<br />陰で支える「通訳」の存在ステージ上にともに立つ西脇氏(左)と樋口氏(右)

社長に「直プレゼン」にやってきた新入社員

――まずはお二人の出会いからお伺いできればと思います。

西脇:樋口は日本マイクロソフト(当時:マイクロソフト株式会社)の社長になる以前に、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)の社長をやっていました。その当時、私は同じIT業界の日本オラクルでエバンジェリストをやっていた関係で、少しだけお会いする機会があったんです。
樋口さんはそのころ、私のプレゼンを見たりしたことはあったんですか?

社長の愚直すぎる熱意を<br />陰で支える「通訳」の存在樋口 泰行(ひぐち やすゆき)日本マイクロソフト 代表執行役 会長
1957年、兵庫県生まれ。80年、大阪大学工学部電子工学科卒業。同年松下電器産業(現パナソニック)入社。91年ハーバード大学経営大学院(MBA)修了。92年、ボストン コンサルティング グループ入社。94年、アップルコンピュータ(現アップル)入社。97年、コンパックコンピュータ入社。2002年、日本ヒューレット・パッカードとの合併に伴い、日本HP執行役員インダストリースタンダードサーバ統括本部長。03年、同社代表取締役社長就任。05年、ダイエー代表取締役社長就任。07年3月、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)代表執行役兼COO、08年4月、同代表執行役 社長就任。15年7月より現職。
著書に『「愚直」論』、『変人力』などがある。

樋口:いや、直接は見てなかったと思いますね。プレゼンを目の当たりにしたのは、入社してから。もちろんその前から「オラクルに西脇というオモシロイ人材がいる」という評判は各方面から伝わってきていましたけどね。

西脇:私がオラクルからマイクロソフトに移籍したのが2009年。当初はエバンジェリストという肩書きではなく、プリセールスのような仕事をしていました。
エバンジェリストになるまでの半年間を私は「助走期間」と位置づけていて、とにかく社内の情報収集と戦略立案に集中しました。マイクロソフトという会社のバリューはどこにあるのか、打ち出すべきメッセージとは何かということをずっと考えていたんです。

樋口そのあとですかね? 僕のところにいきなりプレゼンに来たのは。覚えてますよ。

西脇:そうでしたね。組織変更前のタイミングで、樋口さんに直接プレゼンさせていただく機会をもらったんです。助走期間のあいだに考えたことをスライドにまとめて、「マイクロソフト全社の立場でメッセージを投げる人が必要だ」という話をしたんです。
もちろん各製品は各製品でプロモーションをやっていたし、いわゆる企業広報としての機能も会社にはあったわけですが、日本マイクロソフトの経営者としてどんなことを考えているのかを発信していきましょうよということをお伝えしました。
いまから思うと随分と生意気な話ですが…。

社長の愚直すぎる熱意を<br />陰で支える「通訳」の存在西脇 資哲(にしわき・もとあき) 日本マイクロソフト株式会社 エバンジェリスト
1969年岐阜県生まれ。09年、マイクロソフトに入社。マイクロソフト製品すべてを扱う唯一の日本人エバンジェリストとして活躍。また、独自のプレゼンメソッドが口コミで広がり、全国から講演・セミナー依頼が殺到。「年間250講演、累計5万人以上・200社以上が受講」という圧倒的実績を持つNo.1プレゼン講師としても知られている。
著書に『プレゼンは「目線」で決まる』などがある。

――それで、樋口会長はそのプレゼンに心動かされたと?

樋口:いまでこそ組織間の壁がかなりなくなってきましたが、当時はどうしても会社が製品ごとにタコツボ化しているような側面がありました。
「じゃあ、マイクロソフトのトータルとしての総合力を訴えるメッセージアウトができているのか?」ということになると、「なかなかできてない」と。そこで、社長室直轄のエバンジェリストということで、西脇に入ってもらったんです。

西脇:たまたまタイミングもよかったと思いますね。マイクロソフトには高い製品力と顧客との長い関係性があるので、既存製品ごとのセールスはけっこううまくいっていたわけですよ。
ただ、私が入社した2009年当時のマイクロソフトは、「クラウド」と「スマートデバイス」という2つの新しい領域に取り組もうとしていた。しかもこれらは、WindowsとかOfficeといった既存製品とも密接に関わってくるので、やはり全社を横断するようなメッセージアウトが求められてくる局面だったんです。