60年に一度の「大遷宮」の
途方もない難作業

 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

 正規、非正規採用を問わず、人材の流動性が激しくなった近年では、「仕事の引き継ぎ」「効率的なシェアリング」が重要となっている。引き継ぎやシェアリングと一口に言っても、アルバイトでもできる簡単なものから、非常に複雑なものまで、いろいろあるが、筆者は最近その中でも稀有な例に触れることができたので紹介したい。

 先月、出張と帰省を兼ねて日本に滞在した折、出雲大社を訪れる機会があった。知人の紹介で、運よく出雲大社の職員の方に案内をしていただきながら参拝することができた。出雲大社は現在、60年に一度の「大遷宮」の最中で、職員の方のお話も自然と遷宮についてのものになった。

 遷宮とは、どの神社も一定期間を置いて行われる「建て替え」のことで、本来ならば、神様をお祀りしている社をすべて建て替えて、「原点回帰」をして、御魂に力を取り戻していただくことを指す。その期間は、例えば伊勢神宮ならば20年ごと、出雲大社は60年ごととなっている。

 ただし、現在国宝となっている御本殿すべてを立て直すことは、期間的にも予算的にも無理があるので、1774年に造営された御本殿を60年ごとに修理することで、遷宮を行ってきたという。

出雲大社の遷宮に学ぶ職場の引き継ぎの重要性

 御本殿の修理の中でも、最も重要なのが屋根の修理だ。出雲大社に行った人ならば、想像が付くと思うが、本殿の高さは約24メートル、神社としては破格の大きさである。それを覆う屋根は、ヒノキの皮を使った檜皮葺(ひわだぶき)で、約40トンのヒノキの皮を使用しているという。

 伊勢神宮をはじめとする国内の多くの神社では、ススキやチガヤを使う茅葺(かやぶき)となっている、檜皮葺は、ヒノキの皮のみを使うため、茅葺に比較して、その材料の確保が格段に大変になる。しかも檜皮葺に用いる皮は、若い出来立ての皮でなくてはならない。それらの中から、質のよい一部だけが、檜皮葺に使われる。年月が経って、油分が抜けてしまった皮では、雨をはじくことができないからだ。しかもヒノキの皮は、削いでから再生するまでに10年かかる。40トン分のヒノキの皮を集めるだけでも、とてつもない作業であることが想像できるだろう。

 出雲大社では、山林を寄進してくれた方もいるため、その土地のヒノキを使わせてもらっているが、それでも必要量の何十分の一にしかならないという。したがって、日本全国を探して適したヒノキの皮を集め、屋根の修復に使っているという。それに要する年月は数十年。つまり、今の遷宮が終わったらすぐにまた取り掛からなくてはならない案件なのである。