ビール類飲料で独り負けのサッポロホールディングス。苦しい国内事業をカバーしようと、海外事業を成長ドライバーに据えるが、頼みのベトナムでも苦戦を強いられている。(「週刊ダイヤモンド」編集部 泉 秀一)

「スティールの一件が、サッポロ経営陣の姿勢を変えさせたといっても過言ではない」──。あるサッポロホールディングス元幹部は、感慨深げにこう語る。

 スティールの一件とは、米投資ファンド、スティール・パートナーズによる2007年のサッポロ株式の大量取得問題のこと。当時、スティールとサッポロは経営権をめぐり激しい攻防を繰り広げた。

 一件は、サッポロの勝利で幕を閉じた。それでも、スティールがサッポロ経営陣に残した恨みは深かった。この問題をきっかけに、サッポロはキャッシュをため込み続けることのリスクを認識し、投資方針を大きく転換させたのだ。

 ここから、サッポロは蓄積したキャッシュを活用すべく積極的な投資を始めた。11年には、株式の約2割を保有していたポッカコーポレーションに約210億円を投じて子会社化。最近では、チルド商品の製造販売を手掛けるトーラクの豆乳事業を買収した。

 積極投資した案件の中でも、サッポロがより重要視しているのが、ベトナムのビール事業である。

 約9000万人の人口を抱えるベトナムは「アルコールといえばビール以外に選択肢がない」(ビールメーカー駐在員)というお国柄で、14年の世界国別ビール消費量では10位にランクインしている。さらに、25年までには、同7位の日本を抜いて、アジアで中国に次ぐ2位のビール大国になると予測される有望市場である。

「サッポロのベトナム事業への力の入れ方は尋常ではない。うちではあの投資は到底できない」とライバルメーカー幹部は舌を巻く。

 象徴的な事例がある。ベトナムの飲食店には、プロモーションガールと呼ばれる売り子がおり、彼女たちが指定ブランドのビールを客に薦めて販売促進する。

 サッポロはベトナムでのシェアが1%程度と“弱小メーカー”であるにもかかわらず、トップシェアを握るサイゴンビールや、プレミアムカテゴリー首位のハイネケンに匹敵する数のプロモーションガールを配置。「ホーチミンやハノイなどの都市部の有力飲食店のどこに行っても、サッポロのプロモーションガールを目にする」(現地ビールメーカー関係者)という。