【書評】中国 狂乱の「歓楽街」 富坂聰著中国 狂乱の「歓楽街」 富坂聰著 定価:1,296円(税込)

「東莞の36時間」。中国で語りぐさになっている捕物劇だ。2014年、2月9日午後3時。広東省東莞市で6525人の警官が歓楽街で一斉に動き出し、2千カ所近い施設が手入れを受けた。100万人近い娼婦が暮らした街がわずか36時間で壊滅した。

 違法な風俗店の取り締まりは珍しい話ではないが、動員した警官の数も対象となった施設数も前代未聞。一地方都市ながら東莞がいかに隆盛を極めていたかを物語る。

 客は労働者から富豪まで、価格は数百円から100万円まで。東莞の性産業は市のGDPの2割、日本円にして1兆円規模まで拡大したともいわれる。「性都」は同時に、中国が内包する壮絶な格差の交差点として、富の再分配機能を忠実に担っていた。

 中国の「反腐敗キャンペーン」は緩む気配はないが、本書を読む限り、中国人の欲望は果てしない。むき出しになった欲望の象徴が性産業であり、行き場を失った欲望は今でも膨張し続ける。東莞の住民の多くが今でも性都復活を信じて疑わないという言葉が印象的だ。

週刊朝日 2015年9月18日号