「引きこもり」という言葉が、メディアでも再びクローズアップされるようになった。

 きっかけの1つには、4月17日未明に愛知県豊川市で起きた一家5人殺傷事件の影響もあるのだろう。容疑者の長男(30歳)は、約15年間、家で「引きこもり」状態にあったことがわかり、全国で同じような状況にある当事者や家族に、大きな衝撃を与えた。

 あまり報道されていないが、5日前の4月12日にも、北海道北見市で、やはり「引きこもり」状態だった長男(23歳)が、両親を殺傷する事件を起こしている。とはいえ、このような殺人事件にまで至るのは、これまで表面化したケースを見る限りでは、年間に数件程度だという。

 厚生労働省の訪問面接調査によると、20~49歳の対象者1660人のうち、平均で1.2%が、これまでに「ひきこもり」を経験していたと、2010年2月、内閣府主催の公開講座の中で公表している。08年度の20~49歳の人口は、5118万2000人だから、単純計算すれば、20~49歳の「引きこもり」経験者は、61万4000人余りに上る。

 しかも、自らが「引きこもり」であるとは思っていない人や、言われなき中傷を恐れて、身を隠したがる当事者も少なくない。そもそも、地域に潜在化して引きこもっている以上、面接官による訪問調査自体を拒絶している可能性も容易に想像がつく。

 一方、子どもがいる世帯の0.5%は「ひきこもり」状態の子どもが現在、家にいると回答。我が国の25万5510世帯に「ひきこもり」者がいるとも推計している。

 NPO「全国引きこもりKHJ親の会(家族会連合会)の奥山雅久代表は「世間体を気にして、引きこもりの存在を隠す家族も少なくない。実際には、この数倍以上に上るのではないか」と指摘。一説には、100万人とも200万人とも推計されている。

 そんな膨大な数の中で、殺人事件が年に数件程度ということだから、事件化するのは希有な例といっていい。

ネットと身近な家族を
「世界のすべて」と感じてしまう

 さて、豊川市の事件の場合、長男が殺害された父親(58歳)のクレジットカードを勝手に使い、ネットオークションなどで200~300万円の借金をつくっていた。そして、インターネットの回線を止められたことが事件の引き金になったという。

 家族は、「ネットを解約するように」と警察や県などからアドバイスを受けていたことが、一部報道で報じられている。しかし、長男にとってネットを切断されることは、社会との唯一の接点を遮断されることでもあったのかもしれない。