同じように革新的なサプライチェーンのシステムを導入しながら、明暗を分けた日本企業のワールドとスペイン企業のザラ(ZARA=スペインのアパレル流通グループ、Inditexグループ傘下の企業)。ワールドの事例は日本企業の強みと弱みの両方を象徴する事例だ。日本人は今、何を学ぶべきなのか。“日本企業ファン”の1人として、アナンス・ラマン教授が日本人に熱いメッセージを送る。(聞き手/佐藤智恵 インタビューは2015年6月22日)

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日本企業ワールドに注目した理由

アパレルの常識を変えたワールドとZARA、<br />なぜ明暗が分かれたのかアナンス・ラマン Ananth Raman
ハーバードビジネススクール教授。専門はビジネスロジスティックスとオペレーションマネジメント。特に需要が不確実な製品のサプライチェーン・コーディネーションを専門に研究。MBAプログラム、DBAプログラム、および、エグゼクティブプログラムで、サプライチェーン・マネジメント、サービス・オペレーション、投資家視点から見たオペレーション等を教えている。"Supply Chain Management at World Co., Ltd."(2001)など、日本企業についてのケース教材や記事を多数執筆。主な著書に“The New Science of Retailing: How Analytics Are Transforming the Supply Chain and Improving Performance” (Harvard Business Press, 2010).

佐藤 近著の『The New Science of Retailing』(小売業の新しいサイエンス)では、日本のアパレル大手ワールドのサプライチェーンを紹介しています。なぜワールドに興味をもったのですか。

ラマン 私はこれまで多くの日本企業のオペレーションを研究してきたのですが、ワールドのサプライチェーンについて知ったのは2000年代前半のことです。アパレル業界の中でも、ワールドのサプライチェーンは非常に先進的だと思いました。当時、市場の需要に2週間以内に対応し、期中商品を販売できるアパレル企業は世界で2社しかありませんでした。1つはスペインのザラ、もう1つが日本のワールドでした。

 アパレルの世界は、需要予測が難しい業界です。どのデザインの服が売れるか、どの色がよく売れるかを事前に予測するのは難しいため、予測がはずれると、人気商品がいつまでも補充されない、あるいは、人気のない商品が大量に売れ残る、という事態が生じます。ある調査によれば、店舗で洋服を買う女性の3分の1が「店では欲しい洋服が見つからない」と感じているそうです。

 なぜ顧客が求める洋服を店舗で売っていないのか。それはリードタイム(発注から納品までにかかる時間)が長いからです。今、売れている商品を補充しようと思っても、製品ができあがるころには流行は終わってしまいます。

 その問題を解決したのが、ザラとワールドです。両社は短いリードタイムで期中商品を追加できるサプライチェーンシステムを実現していました。なぜザラとワールドだけが可能なのか、不思議に思い、調査することにしたのです。この事例はケース教材にもなっていて、ハーバードの授業でもよく使われています。

佐藤 ザラとワールドはアパレル業界の常識を変えたということですね。

ラマン 両社は「発注から納品までを2週間以内にやり遂げる」ことは不可能でも何でもないことを示してみせました。現在では多くのアパレル企業がこの手法を取り入れています。世界的なアパレルメーカーの経営陣を取材すると、皆、「両社からサプライチェーンを学んだ」と言います。