大統領の指針ともなる最高情報機関・米国国家会議(NIC)。CIA、国防総省、国土安全保障省――米国16の情報機関のデータを統括するNICトップ分析官が辞任後、初めて著した全米話題作『シフト 2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来』が11月19日に発売された。在任中には明かせなかった政治・経済・軍事・テクノロジーなど、多岐に渡る分析のなかから本連載では、そのエッセンスを紹介する。

第5回では、世界経済の2035年への「シフト」の正体を明らかにする。中国のみならず、それを上回る潜在力を秘めるインドやコロンビア、インドネシア、メキシコ、トルコ、ブラジルなどの新興国の台頭は非「西」側世界へのパワーシフトを加速させる。

アジアが世界の「パワー」の中心地になる近未来

いまはすべてが大きく変わった。グローバルパワーの四つの尺度(GDP、人口、軍事費、技術投資)によれば、2030年までにアジアは北米とヨーロッパの合計を抜き、世界のパワーの中心になる。中国は2020年代に世界一の経済大国になりそうだ。世界経済と政治でもアジアの重要性が高まり、18世紀以来のヨーロッパと西側の優位は崩れようとしている。

20年後、アジアは欧米を越える経済の中心地になる

その一方で、コロンビア、インドネシア、メキシコ、トルコ、ブラジル、南アフリカ、ナイジェリア、さらにはイラン、エジプトなど非西側諸国(少し前まで「第三世界」と呼ばれていた国々だ)も、向こう10〜20年で大きく台頭する可能性がある。このことは中国やインドといった大型新興国の台頭と同じくらい重要だ。いずれも中国やインドほどの「大国」にはならず、2番手にとどまるだろうが、グループとしてはヨーロッパ、日本、ロシアを超える一大勢力になるだろう。さらにグローバルパワーの四つの尺度で、2030年までにEUを追い抜くだろう。この中型新興国のグループと中国とインドという大型新興国をあわせると、西側から新興国すなわち非西側世界へのパワーシフトは一段とはっきりする

このグローバルなパワーシフトを受け、今後20年間は地域的なパワーシフトも起きるだろう。中国はすでにアジアで大国の地位を固めつつある。2030年には中国のGDPは日本の約1.4倍に達するだろう。その頃には中国は世界最大の経済大国となり、インドをリードしている。しかし中国の成長が鈍化すれば、インドとの差は縮まるだろう。ただしそれは、インドが早期に構造改革に着手して、近年の低迷を脱出することが条件になる。2030年のインドは、過去20年間の中国のような高度成長国になっている可能性がある。他方、中国の成長は現在の水準(7〜8%)を大幅に下回るだろう。