最近、対人関係の問題などで心を病む人が増えています。会社は多くの人が集まる場所。そこには、上司や先輩、同僚、部下や取引先など、多くの人間関係が生じます。それらの関係は、いずれもストレス要因になり得ます。職場のストレスをなくし、働きやすい環境をつくるのは現場を預かるリーダーの仕事のうち。本連載では、『部下をもつ人の職場の人間関係』を上梓した対人関係療法の第一人者で精神科医の水島広子氏が、職場のストレスをなくし、円滑な人間関係をつくるコミュニケーションのコツをアドバイス。第4回は、ストレスの原因となる「役割期待」のずれについて説明します。

「役割期待」のずれが、ストレスを生む

誰もが、他人に対して何らかの役割を期待している

 部下の悩みとしてよく聞くのは、「上司が何を考えているのかわからない」「上司が自分に何を期待しているのかわからない」というものです。

 つまり、曖昧な指示であったり、顔色だったり、そういうものを部下に読ませている上司が多いのです。

 あるいは、本人は何も読ませようとしておらず、部下を完全に放任しているため、困ってしまった部下が上司の顔色を自分なりに読みすぎている、ということもあるでしょう。

 読者の皆様に、ぜひ、身につけていただきたい概念が「役割期待」というものです。私が専門とする対人関係療法では、あらゆる対人ストレスを「役割期待のずれ」として見ます。

 自分が相手に期待している役割を相手が果たしてくれていれば、ストレスは生じません。しかし、自分が期待している役割を相手の人が果たしてくれなかったり、やらないでほしいと思うことをされてしまったりすると、ストレスに感じます。

 あるいは、相手が自分に期待している役割が、自分の苦手なことだったり、やりたくないことだったりするとストレスになります。

「役割期待」は、あらゆる人に対して私たちが抱いているものです。

 例えば、駅ですれ違う他人には、「知らない人」という役割を期待しているので、なれなれしい行動をとられると不快になるのです。

 あるいは、新入社員に「緊張している」という役割を期待していれば、妙に態度の大きい新入社員を見て「まったく最近の若者は」と頭にくることでしょう。

 職場においては、リーダーが部下に期待していることが満たされないと「どうしてこんなこともできないのか!」という不満につながります。

 また、部下から不適切な役割を求められると、「なぜこんな忙しいときに」「どうして自分でやらないのだ」「そんなことが自分にできるだろうか」などと、不満や不安を感じることになります。

 これらは総じて、「役割期待のずれ」ということになります。そのずれがストレスを生むのです。

 自分が相手に期待している役割を相手が実行してくれないので、「どうしてこんなこともできないんだ!」と不満を感じるのです。部下は、自分が望まない役割を期待されると、やる気を失ったり、「とても、できない」と不安に圧倒されたりします。