官民ファンド「産業革新機構」の設立からほぼ1年。9000億円という巨大な投資能力への期待と同時に、4件の投資実績には疑問の声も出始めた。「成長分野へのベンチャー投資が当初の趣旨と聞いたが、実態は少し違う」(バイオベンチャー社長)というのだ。

 3月にまとまった第1号案件は、東証1部上場のアルプス電気が事業分割で設立した新会社への上限100億円の出資である。主力事業は、電気自動車などに組み込む電子部品の製造だ。成長性はあっても、大企業傘下のベンチャーに機構の出資が不可欠だったかは確かに意見が分かれるところである。

 このほか小型風力発電ベンチャーに10億円、三菱電機などの出身者による半導体ベンチャーにも16億円の投資を決めたが、民間ベンチャーキャピタル(VC)が出資した“安全パイ”。「多くのVCの後追いにこれだけの額が必要か」(金融関係者)と疑問の声も上がる。

 反論するのは、機構設立の立役者である経済産業省出身の西山圭太・執行役員企画調整室長だ。

「日本でベンチャーを軌道に乗せるには、まず“成功例”をつくるべきで、(すでにVCから出資を受けて開発段階の上がった企業への)セカンダリー投資から始めることは当初からご説明している。(技術開発はじめ事業が初期段階にある)シードベンチャーへの投資の要望は認識しており、子ファンドを通じた投資を始めるか否か、今年度後半に見極めたい」

 機構が目指すのは、大学や大企業、ベンチャーなどで連携して技術革新を進めるオープンイノベーションの“起爆剤”。その大志には同調しつつ、投資が冷え込むなかベンチャー経営者の焦りは募る。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柴田むつみ)

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