アパレルメーカーのワールドが展開するブランド「ル ティロワ ドゥ ドレステリア」。その雑貨複合型のアパレルショップのデザインを担当したのは、丹青社の上垣内泰輔。事業主の要望は、「市場で勝負できる店」をデザインしてほしいというもの。その要望に対して、彼は徹底したリサーチで課題解決を試みた。その姿勢は八重洲地下街の「スパニッシュ カフェ&バル アンクラー」の店舗づくりでも発揮されている。結果を出す店舗デザインとは何か? 上垣内に聞いた。

先行するショップを踏破、
徹底した調査分析を行う

上垣内泰輔(かみがいち・たいすけ)
プリンシパル クリエイティブディレクター

飲食店からアパレルまで専門店の店づくりを数多く手掛ける。主な実績に、「HANA吉兆」、「並木薮蕎麦」、「ベルベリー」、「BASELWORLD SEIKO Stand (2008~)」(スイス)など。ディスプレイデザイン賞優秀賞、JCDデザインアワード奨励賞、SDA賞優秀賞&招待審査員賞、ADAM賞2008(ドイツ)ブロンズ賞など受賞多数。

「事業主の要望は『市場で勝負できる店』でした。普通ならば、デザイナーは事業者のブランドコンセプトを空間にどう落とし込むかという役割を担います。けれど今回、事業者側には、“ブランド構築の段階から一緒に考えてほしい”という明確な意志がありました。もともと商業分野の店舗デザインとは経営課題を解決するためのものですから、矛盾は感じませんでした」

 ライフスタイルショップは数年前から、路面店で流行り始めた。洋服、雑貨というカテゴリーを越え、「こういう生活が好きな人たち」のための、オールラウンドショップである。特に郊外型のモールの中で、各ブランドが競って出店するようになった。

 その中でも成熟した市場への参画となる「ル ティロワ ドゥ ドレステリア」は、それならではのメリットがあった。つまりライフスタイルショップの成功例も失敗例も、すでに市場で明らかになっていたのだ。上垣内は、それを徹底的に調査分析することから始めた。

 3ヵ月間、手分けして首都圏のライフスタイルショップを文字通り“踏破”したという。多くのベンチマークを訪ね、手書きで店舗のレイアウトをメモする。「アパレルと雑貨の割合はもとより、どの高さの棚にどんな商品が置いてあるか、たとえばインナーの服の上に化粧水が置いてあるなど、商品のリレーションにも注目しました」と上垣内は振り返る。

 並行して、ブランド自体の方向性の議論も重ねた。「ル ティロワ ドゥ ドレステリア」は、既存ブランドである「ドレステリア」よりライフスタイル提案を強化した新しいコンセプトのストアである。かつて「ドレステリア」の顧客だった層が、家庭を持ち郊外に住む。そんな顧客が購入しやすい価格帯のブランドをイメージ。マトリックスを用い、既存ブランドの持つ空間イメージとの関連性を分析し、それにふさわしい空間の在り方を考えた。