「本当に、ちょうどうちに対応するような商品を出してくるんですね」。

 スターバックス コーヒー ジャパン関係者がこう漏らすのも無理はない。6月8日、この秋にも同社が拡大参入しようという家庭用コーヒー市場に、時期を同じくしてインスタントコーヒー界の最大手、ネスレ日本が“次世代コーヒー”を発売すると発表したのだ。9月1日から、新「ネスカフェ 香味焙煎」を発売する。

 次世代コーヒーの“次世代”たる所以は、新製法の「挽き豆包み製法」を導入したところにある。飲み方はインスタントコーヒー同様、お湯を注ぐだけと簡便。しかし、レギュラーコーヒーの香りと味わいは残される。それでいて、価格は1杯17円程度(希望小売り価格の場合)と経済的だ。

 ネスレ日本は、この次世代コーヒーのために、新カテゴリーまで創出した。レギュラーコーヒーでもインスタントコーヒーでもない、その名も “レギュラーソリュブルコーヒー”だ。

 次世代コーヒーは、273人を対象にした試飲テストで、66%が「レギュラーコーヒーよりおいしい」と答えたという。記者発表の場で記者などにもテストをしてみせたほどの自信作だ。

 だからこそ期待は大きい。新・香味焙煎は「1年で倍にしたい、というより倍になるだろう」(高岡浩三・ネスレ日本副社長)。実際、テレビショッピングで6月11日から10日間かけて先行販売する予定だった2000セットは、14日の昼に完売した。

 一方、この1ヵ月ほど前の5月18日、スタバは米国本国のスターバックス・コーポレーションと味の素ゼネラルフーヅ(AGF)が家庭用コーヒーの販売提携を結んだと発表していた。日本の流通網に明るいAGFのノウハウを享受することで、百貨店やスーパー、コンビニエンスストアなどに家庭用コーヒーを販売する。

 商品は、チルドカップや缶、ペットボトル以外の「複数のコーヒー商品」が販売されるとしか発表されていない。

 高岡副社長は、スーパーなどから「スティックタイプ(スティックに1杯分のコーヒーが入っている個包装タイプ)で作って欲しいという話も来ているから、その形は出してくるのでは」と推測する。

 AGFはスティックコーヒーに強く、スタバ商品を同じ売り場で展開すれば「新しい需要の開拓」(AGF)につながる可能性はある。しかしネスレも、この形状での販売は「検討中」という。

 スタバ店舗の既存店売上高は、4月14日からスタバ店舗で発売しているスティックコーヒー「スターバックス ヴィア® コーヒーエッセンス」の健闘もあって、今年度に入ってからは調子がよい。とはいえ、2008年度からの2年間では前年割れをする月が多くなっている。

 しかし、今秋からの取り組みは、既存店のビハインドを補填するために行うわけではない。スタバには「全体で売り上げを伸ばしていくという考えはない」。スタバ店舗と小売店への販売は、あくまでも別物だという。

 ネスレの追撃で、家庭用コーヒー市場での競争は激化する恐れがある。ただし、サントリーと共同開発したチルド飲料「スターバックス ディスカバリーズ®」の発売は、店舗の売り上げアップに貢献した実績があるという。店舗で顧客を満足させるサービスレベルが維持できていれば、戻ってきた顧客の再度囲い込みという別の面での好影響が期待できる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)