1949年の上場以来、初の最終赤字を計上するキリンホールディングス。原因はブラジル事業の大不振にあるが、その根底には海外統治の脆さがあった。(「週刊ダイヤモンド」編集部 泉 秀一)

 キリンホールディングスの溝内良輔常務執行役員は今、3週間に1度のペースでブラジルを訪れている。移動に丸1日をかけてでも地球の裏側に足を運ぶのは、低迷中のブラジル事業再建を一手に任されているからだ。

 溝内常務といえば、経営戦略部長など重要ポストを歴任してきたキリンのエースで、磯崎功典社長の腹心といわれる人物だ。

 その溝内常務を、2015年3月にブラジル担当役員に就任させたという人事が、キリンのブラジルでの苦戦を象徴しているといえよう。

 昨年12月21日、キリンは15年12月期の連結業績予想を大幅に下方修正した。560億円の最終損失を計上する見通しで、1949年の上場以来、初の最終赤字に転落することになる。

 赤字の主因は、再建中のブラジル子会社の大不振で1412億円もの減損損失が発生すること。償却済みの272億円分(のれん、固定資産等)を差し引いても、1140億円の特別損失が生じる見込みだ。

 キリンは11年にブラジルのビール大手、スキンカリオール(現ブラジルキリン)の株式を約3000億円で取得。買収を手掛けた三宅占二前社長は、「熾烈なグローバル競争の中で、これだけの良い案件はめったにない」として、世界3位の規模を持つブラジル市場に大きな期待を示していた。にもかかわらず、なぜブラジル事業は不振に陥ってしまったのだろうか。

 その理由は二つある。一つ目はブラジル経済の失速である。買収当時のキリンの経営陣の未来図では、ブラジルは新興国として経済成長を遂げていくはずだった。

 しかし、そううまく事は運ばなかった。ブラジル経済はレアル安や原油価格の暴落により低迷。その余波は、例に漏れずビール業界にも押し寄せた。

 殊にレアル下落は、麦芽や缶などの原料・資材の多くを輸入で賄うキリンにとって痛手だった。買収当時は1ドル=1.6レアルだったレートが、足元では1ドル=4レアルまでレアル安が進行。15年12月期通期決算では、ブラジル事業の営業損失は174億円(前年同期比185億円のマイナス)となる見込み。そのうち18億~22億円が、為替変動による減益である。