『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などの大ヒットを生み出したのち、大手出版社を辞め、作家エージェントを起業した編集者・佐渡島庸平氏。彼が大切にしているのは「仮説を立てる」ということだ。

 本連載では早くも4刷と好評を博している佐渡島庸平氏初の著書『ぼくらの仮説が世界をつくる』のエッセンスを紹介していく。

「ヒマだから映画に行く」という時代は終わった

 最近になって、時間の感覚も大きく変わってきていることを実感しています。

 そのことを考えるきっかけをくれたのは、nanapi代表取締役・古川健介さんの「けんすう日記」でした。

 たとえば1日中、何もすることがなかったとします。ひと昔前までは、そんなとき「今日はヒマだから映画を観に行こう」と思ったものです。しかし、最近では「ヒマだから映画を観に行こう」という感覚は、あまり一般的ではありません。

 映画はヒマだからふらっと観に行くものではなく、「予定を立ててわざわざ観に行くもの」になっているからです。2000円近い料金を払って、2時間くらい劇場に座り続ける。もはや映画はヒマつぶしではなく、立派な「イベント」になっているのです。

 では、最近の人はヒマなときに何をしているのか。日常を思い出すとわかるかと思いますが、スマートフォンでしょう。その時間は、おそらく5〜15分。「ヒマ」という感覚が細切れになっているのです。だから、「わざわざ」観に行く映画には、「ヒマだから」という表現は使わない。

 時間の使い方を変えてしまうような機械もどんどん開発されています。

 たとえば、テレビの全放送を自動で録画してくれる「全自動録画機」。パナソニックから発売されている「DIGA」やベンチャー企業が開発した「ガラポンTV」などが有名ですが、これがあればリアルタイムで放映を見逃したとしても、好きな時間に視聴することができます。

 当然、番組を録画して後から視聴することは、これまでもありました。しかし、「全自動録画機」があれば、空いた時間に気になった番組を気軽に観ることができる。原則、「リアルタイム」だった視聴形態が変わりつつあるのです。「全自動録画機」がもっと普及すれば、テレビの番組も、ネット上の無数にある動画と完全に変わらなくなります。

DVDをデッキに入れることすら「めんどくさい」時代

 他にも変化している感覚があります。たとえば「めんどくさい」という感覚です。

 動画配信サービスのHuluを使うようになってから、DVDを入れるというその仕草すらめんどくさく感じませんか? 同じようにiTunesを使うようになってからは、CDをパソコンに取り込むということすらめんどくさくなってしまった。

「めんどくさい」と思う基準すら変わってきているのです。

「マンガボックス」というマンガを読めるアプリがあります。このアプリは、アイコンを押すとすぐにバナーが出てきて、いきなりコンテンツを絵で見られて、直感的におもしろそうなマンガをすぐに読める。2回のタッチでコンテンツに辿り着けます。

 一方で、キンドルのアプリでは、読んでいる途中の本以外を読みたい場合、どこに何があるかがわからない「ライブラリー」に戻ってから読みたい本を探さなくてはいけません。

 PCで紙の本を買う分には、圧倒的な便利さにこだわったアマゾンも、アプリではたくさん「めんどくさい」と感じる操作性を残してしまっている。スマホ時代の感覚に対応できていません。

途中にタップを挟む回数を減らして、すぐにコンテンツが見られる。それがすごく重要です。フェイスブックアプリもツイッターもすぐにコンテンツが見られる仕様です。

 お金の形態や時間の感覚が変わり、めんどくさいの感覚も変わってきている。めったに変わらなかった感覚が、10年ほどで大きく変化するような時代です。そのことで、人や社会はどうなっていくのか――。

 予測は難しいですし、それがわかれば苦労はないのですが、これらの変化の意味を考えることが、これからの時代を生きる上でとても大切になってきます。