「ぜひ、技術を教えてもらいたい」

 米国の事業会社に請われ、東京電力は、原子力発電所の“輸出”に初めて踏み切った。

 1979年のスリーマイル事故以来、原発建設が約30年間止まった米国に対し、東電は建設から運営、送配電、販売まで垂直統合型のノウハウを持っているからだ。

 東電が参画したのは「サウステキサスプロジェクト原発3・4号機増設事業」。東芝製の135万キロワットの改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)を2基設置する。2016~17年に営業運転を開始する。

 東電は子会社を通じ、1億2500万ドル(約110億円)を出資し、10%の権益を確保する。翌年以降、20%まで権益を広げ、出資額は最大で9億ドル(約800億円)を想定している。

 大勝負に出た東電の勝算は三つある。

 第1に安定的な収益を確保できる点だ。隣地で稼働中の1・2号機は、設備利用率が90%を超え、トップクラスを誇る。貯水池や敷地も整備されている。原発がいったん動き出せば、60年間の稼働を見越す。東電執行役員の久玉敏郎国際部長は「初期投資の回収に10年もかからない」と言う。

 第2に技術貢献と人材育成につながる点だ。今回、社員を最大で8人送り込む。柏崎刈羽原発で培ったABWRのノウハウを生かし、保守・運営を行い、経営にも参画する。米国に貢献する一方で、規制の仕組みなどを学び、米国内の原発約100基の建て替え需要も奪いにかかる。すでに社内体制も変え、7月には「海外原子力事業開発グループ」を立ち上げている。

 最も大きいのは、リスク回避ができると踏んだ点だ。米政府の債務保証を条件にする。税制優遇や建設遅延に対する補償がある。万一の事故には、プライス・アンダーソン法に基づき、1兆円超の補償を受けられる。日本の国際協力銀行の融資もある。出資面では、まず20%まで権益を買い増せる権利を購入する。「2年かけ精査に精査を重ねた」(久玉部長)という、石橋をたたいて渡る戦略だ。

 今、民主党はメーカーと電力会社を巻き込み、官民一体となって原発を輸出する成長戦略を掲げている。だが、そのリスクは大きい。

 6月下旬に原子力協定の締結交渉に入ったインドは、核不拡散条約(NPT)に入らず、核武装した国。協定は輸出に不可欠だが、機器や技術が核兵器に転用される恐れがある。アラブ首長国連邦の原発受注競争では、韓国電力チームの「60年間の運転保証」が日本の敗因の一つとされるが、電力関係者は「事故等からそんなリスクは取れない」と口を揃える。

「メーカーは売れば終わりだが、電力は地域に残る」(電力関係者)ため、新興国リスクの回避や国の支援策が成否の鍵となる。東電の進出がその試金石となりそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)

週刊ダイヤモンド