英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週はもちろん参院選の結果についてです。消費税議論や政権運営で有権者が民主党に批判票のイエローカードをつきつけたのはさもありなんだが、では財政再建はどうするの? 何かと言えばさっさと首相を交代させようとするその風潮はどうなの?――というような論調が英米各紙には見られました。(gooニュース 加藤祐子)

国家運営など、なくなるのか

 実際にイエローカード大量放出でこのままどうなってしまうのかとハラハラしたのは、スペイン対オランダのワールドカップ決勝でした。それに先立つ7時間半前、日本ではご存知のとおり開票開始と同時に「与党過半数割れ」参院選の結果が出ました。

 選挙戦中もさまざまなサッカー比喩が飛び交い、自分もついつい日常会話にサッカー比喩を紛れ込ませていたこの一カ月だったので、無理もないこととは思いますが、英『フィナンシャル・タイムズ』紙のミュア・ディッキー東京支局長も「有権者が菅にイエローカード」という見出しの記事を書いていました(「菅」と呼び捨てなのは同紙が基本的に敬称略だからで、他意はありません)。掲載時間を見ると、キックオフの直前です。

 いわく、民主党が参議院で単独過半数を実現していれば、「アジアで最も豊かで最も影響力の強い民主国家を改革しようという、野心的な挑戦の道がスムーズなものになった」はずなのに、「その期待は崩れ去ってしまった」「政治的に不安定な状態が長く続くだろうとアナリストたちは言う」と。

 同紙以外にもあちこちの英語メディアからコメント取材を受けている米コロンビア大学のジェラルド・カーティス教授は、「これから当分、何カ月も先まで、国家運営(governing)などほとんどなくなる。政策論争(policy)ではなく、政治駆け引き(politics)が全てになる」と手厳しい。

 「politics, not policy」は英語で、ダメな政治を表す常套句です。「政策より政治駆け引き」が優先される、「政治家」ではなく「政治屋(せいじや)」ばかりが元気な世界です。適切な訳語が思いつかない、「statesman=ステーツマン、ビジョンと胆力と実行力のある国家指導者」のいない世界です。

 記事は、それまで低迷していた民主党支持率が菅新首相就任で盛り上がったものの、菅氏が「財政再建と消費税率5%の倍増を参院選の主要テーマにしたことで、党内の一部から攻撃されている」と説明。続く次の段落が、興味深い解釈だと私は思いました。

 「多くの有権者は増税の必要性を受け入れている(強調筆者)のだが、低所得者層をその影響からどう保護するかについて首相の発言が首尾一貫しなかったせいで、野党はこれを攻撃。きわめて批判的な主要メディア(highly-critical mainstream media)もこれを、首相の意志が弱く、経済運営が下手な証拠だと攻撃した」と。

 テンプル大学のジェフ・キングストン教授(こちらもやはり複数メディアに登場)は、日本のマスコミが菅首相に「恥知らずなまでに襲いかかった(shameless mugging)」と厳しい表現。ただし菅首相も「批判勢力の思うつぼだった」と。「消費税増税に言及するのは勇気がいることで、私は菅をとても尊敬するし、いい判断だったと思う。なのにその後、彼は事細かな議論に引きずり込まれてしまった」のだとキングストン教授は残念がっている様子です。

 「イエローカード」という言葉を使ったのは、政策研究大学院大学の本田雅俊准教授です。「ワールドカップが続いているので、有権者は民主党にイエローカードを出したのだと言うべきかもしれない。レッドカードではない」とコメントしています。

 一方で、米『ニューヨーク・タイムズ』紙の取材に応えた東工大大学院の谷口尚子准教授は、「これほどひどいとは誰も思っていなかった。有権者は指導力の危機だと感じている」と厳しい。

政治的にダメダメな毒薬だった

 筆者のマーティン・ファクラー東京特派員は、「日本の硬直した戦後秩序を刷新するという公約を実現できない」民主党に対して、有権者は落胆を示したのだと論じています。民主党敗北は「長引く経済停滞を終わらせられなかったから」。かつ自民党の集票力が「いまだに恐るべきものだ」と明らかになったのだと。

 いわく、民主党敗北の最大要因はやはり消費税で、「選挙前に増税を提案するという、どんな国でも政治的にはダメダメなこと(a political no-no in any country)をしてしまった」だけでなく、反発を浴びるや首相が「態度をコロコロ変える(flip-flop) 様子からは、政権担当経験の少ない民主党」が実行力のある政権与党になれるのかという、「さらに大きな疑問が浮上してしまったようだ」と。

 ゆえに「指導力の危機(leadership crisis)」なのだと。テンプル大学のキングストン教授はこちらの記事では、「税金問題での菅の態度は、あの気の毒な鳩山を連想させてしまった。日本の人たちは強いリーダーシップと変化を渇望している」と(同紙も敬称略が基本なので、呼び捨てに他意はありません)。

 確かに、選挙直前に増税を持ち出すのが「political no-no」だというのは、私にでさえ分かることです。

 英BBCのローランド・バーク東京特派員も、「緊縮財政の話題は選挙にとって毒薬そのものだと、日本の政治家はそう受け止めている」と指摘しています。

 ただ、選挙前には増税を何も語らないでおいて選挙後に増税するのが、民主主義のあるべき形かというとそんなはずはないと私は思いたい。そこで、時には苦しい選択も必要なのだと国民をじっくり説得するのが「政治屋」ではなく「ステーツマン」だと思うのですが、残念ながら米『ワシントン・ポスト』紙のチコ・ハーラン東京特派員には、「過去4年間で5人いた日本の総理大臣の誰ひとりとして、停滞する経済と財政赤字の問題に正面から取り組もうという力も、意志も見い出せなかった」と書かれてしまっています。

 おっしゃるとおりでございます……。

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