「ファイナンス」や「ファイナンス理論」と聞いて、みなさんはどんなことを連想しますか? ファイナンスとは端的に言えば、「企業や事業の価値を最大化するためにはどうすればいいかを理論的に考えるためのツール」です。本連載では、モーニングスター株式会社代表取締役社長の朝倉智也氏の著書一生モノのファイナンス入門の内容をベースに、ファイナンスの基本のキからわかりやすくお伝えしていきます。

会計とファイナンスはどこが違う?

 今後のキャリアアップのために何か勉強しようと考えるとき、「もうちょっとビジネスの数字に強くなりたい」と思う方は少なくないはずです。

  そのような場面で多くの人がまず手に取るのは、おそらく財務3表の読み方を解説しているような会計を学ぶための本でしょう。

 ちなみに財務3表とは、「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」のことです。

ファイナンスがわかる人は、<br />なぜ出世が早いのか?朝倉智也(あさくら・ともや)                    モーニングスター株式会社代表取締役社長(東証JASDAQ上場企業)1966年生まれ。1989年慶應義塾大学文学部卒。銀行、証券会社にて資産運用助言業務に従事した後、 95年米国イリノイ大学経営学修士号取得(MBA)。同年、ソフトバンク株式会社財務部にて資金調達・資金運用全般、子会社の設立および上場準備を担当。98年モーニングスター株式会社設立に参画し、2004年より現職。 第三者投信評価機関の代表として、常に中立的・客観的な投資情報の提供を行い、個人投資家の的確な資産形成に努めるとともに、各上場企業には、戦略的IR(Investor Relations:インベスター・リレーションズ)のサポートも行っている。他にSBIグループ各社の重要な役員を兼任する。著書に『30代からはじめる投資信託選びでいちばん知りたいこと』(ダイヤモンド社)、『低迷相場でも負けない資産運用の新セオリー』(朝日新聞出版)、『新版 投資信託選びでいちばん知りたいこと』(ダイヤモンド社)などがある。

 これまで会計について勉強したことがないという方でも、どれも名前くらいは聞いたことがあるのではないかと思います。上司や先輩などから「ビジネスパーソンなら財務3表くらい読めなければダメだ」と言われたことがある方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

「ビジネスの数字がわかる」とは、一般には「会計がわかる=財務3表が読める」ことというイメージが強いように思います。

 さて、これほどビジネスの世界で重視されている「会計」ですが、そもそも「会計」が何のためにあるのかを、みなさんは考えたことがあるでしょうか?

 ここを理解していないと、ファイナンスも会計もごちゃごちゃにして勉強し、細かいルールや指標に振り回されて、「どうも分かった気がしない」「結局、勉強したことがどう役立つのか分からない」ということになりがちですから、注意が必要です。

 ファイナンスの目的は企業価値の最大化あなたは「会計」「ファイナンス」の違いをシンプルに説明できるでしょうか?

 会計とファイナンスの違いは、「目的」「時間軸」に注目するとスッキリ理解できます。

 会計の目的はどこにあるのか──一言でいうなら、それは「現在の企業の状態の把握」です。

 財務3表によって示されるのは、「ある一時点における企業の資産や負債の状況」「一定期間の収益の増減」「一定期間のキャッシュの増減」。

 これらの数字は、時間軸で言えば「過去」「現在」を知るためのものですね。

 一方、ファイナンスの時間軸は「未来」です。先に少し触れましたが、ファイナンスの目的は「企業(ビジネス)価値の最大化」にあります。

 もう少し丁寧にいえば、「企業価値を向上させるために、これからどうすべきか」を考えるのがファイナンスの役割、ということになります(図表参照)。

ファイナンスがわかる人は、<br />なぜ出世が早いのか?

 

  たとえて言うなら、会計は会社の現状を正しく把握するための「健康診断」のようなものです。

 その結果をふまえたうえで、「理想的な健康体を作る最適な方法」を考えるのがファイナンスだとイメージすると、分かりやすいかもしれません。

会計「だけ」を勉強しても出世できない理由

 会計とファイナンスの違いを知れば、おのずと見えてくることがあります。

 それは、キャリアアップを目指すなら、会計「だけ」を勉強するのでは足りない、ということです。

 確かに、会計を学ぶことは非常に重要です。

 今、会社がどのような状態にあるのかを数字で正しく把握・分析する力なくして、ビジネスを語ることができないのは言うまでもありません。

 しかし、自分の勤務先やライバル企業の「過去」をいくら分析できたところで、それだけではあまり意味がありません。

「では今後、ビジネスをどう展開していくべきか」を訊ねられたとき、まともな戦略を打ち出せないとすれば、その人の人材としての価値は低いと言わざるを得ないでしょう。

企業にとって重要なのは、「今後いかにして成長するか」です。未来を語れる人材、すなわちファイナンスが分かっている人こそが、会社から必要とされ出世し、より高いポジションに就くというのは、ごく当たり前のことだと言えます。

 もちろん、未来を語るためには、まず過去を知ることが必須です。

 会計の知識は、未来を語るためのベースとして欠かせません。

 ですから、ビジネスの数字に強くなってキャリアアップを目指したいなら、まずは「過去と現在」を扱う会計について押さえ、そのうえで「未来」を語れるようになるためにファイナンスを学ぶべきなのです。

※次回は、3月31日(木)に掲載します。