飲食店の予約/顧客台帳サービスとしてNo.1のシェアを誇る株式会社トレタの代表・中村仁氏に、飲食店向けのお勧めのITサービスを選び、解説してもらう連載の第3回。今回は「ビフォー・アフター」の「アフター」編です。いま、恵比寿でも屈指の人気を誇る寿司店の店主が、トレタの導入によって予約業務の煩わしさから解放されただけでなく、いかに劇的に接客のレベルが上がり、それが売上のアップに繋がったのか、詳細に語ってくれました。(構成:谷山宏典 写真:疋田千里)

誰でも予約の受付ができるようになり、
おもてなしに集中できるように

 予約のことが常に頭から離れず、苦しんできた若槻さんがトレタを導入したきっかけは偶然でした。それまで使っていたパソコンのシステムが壊れてしまい、困っていたところにトレタのセールス担当者がやってきて、そのときはじめて若槻さんはトレタの存在を知りました。直感的に「使いやすそうだな」と感じましたが、一方で不安もあったそうです。

若槻「予約データをクラウドサーバーで管理するという話だったのですが、私は機械に疎くて何もわからないので、『データが消えるんじゃないか』と心配になったんです。また、iPadを使ったことがなかったので、果たして自分に使いこなせるだろうか、と。ただ、現状のままではダメだという危機感もあったし、担当の方にいろいろ教えてもらううちに不安も解消されて、導入を決めました」

月商1000万円を達成した寿司店の秘密つけ場に立つ「鮨 竹半 若槻」店主・若槻 剛史さん

 若槻さんの中には「お店を変えていくぞ」という強い意気込みがありました。ただ、はじめは従業員の反応はいまいちでした。彼らもかつての若槻さん同様、必ずしもITのことが得意ではなかったので、導入してしばらくは予約情報をトレタではなく、従来通りに紙のノートに書き込んでいました。

若槻「トレタの担当の方とも話をして、ノートの台帳をやめる日を決めなければいけない、ということになりました。そこでトレタ導入10日後にノートの使用を禁止してしまって、トレタ一本に絞ったんです。その後もしばらくは紙のメモに書いたりする従業員もいましたが、徐々に慣れてくれて、今では若い彼らの方が自分よりも使いこなすようになりましたね」

 若槻さんの店では2台のiPadを使用しており、1台は若槻さん専用、もう1台は店舗用としています。予約管理をトレタで行うようになったことで、店のオペレーションにもさまざまな変化が現れてきました。
 

月商1000万円を達成した寿司店の秘密iPadでのトレタ画面。店内の全座席の予約状況を俯瞰できる。

 もっとも大きな変化のひとつは、トレタを使えば「ご新規様なのかリピーター様なのか(来店回数)」「常連客であれば、好みの席はどこか(顧客情報)」「現時点で指定日時のその席が空いているかどうか(予約情報)」という予約受付の一連の流れが誰でもわかるため、従業員でも予約の対応ができるようになったことです。

 なかには従業員では配席などの判断ができない予約もあるそうですが、そんなときは「ウェイティングリスト」機能を活用。従業員にはとりあえずウェイティングリストに常連客の予約を入れてもらい、あとから若槻さんが常連客への席の割り当てを確認・調整しています。

 煩雑な予約管理業務の一部を従業員に任せて、自分がやるべきことは空いている時間に効率的に作業ができるようになった結果、「サービス中は目の前のお客様のおもてなしに集中できるようになりました」と言います。

 悩ましかった当日予約客の配席についても、トレタの画面上ならば予約一覧からワンタッチで席の移動ができるため、ギリギリまで対応できるようになりました。

若槻「自分はその日の仕込みが終わると、いったん事務所に戻ったりして店を離れてしまうのですが、自分用のiPadは常に持ち歩いているので、外出先からでも座席の振り分けができるのは非常に助かります。以前は店を離れると『予約状況は今、どうなっているだろう?』と気が気ではなく、店に戻ってからは急いで予約の再確認をして、必要があれば紙の台帳で配席を変えて、しかもそれを従業員に伝えなければなりませんでした。しかし、今は外出先でも座席の確認・変更ができるし、変更になったことを即座に共有できるので、店に戻ったあとの作業や従業員に出す指示が少なくなりました。予約に関する精神的なプレッシャーはかなり解消されましたね」

 それまでできなかったことができるようになったという意味では、このケースは「IT化による高度化」だといえます。

トレタを通じた顧客情報の共有で
サービスの質が向上し、リピート率もアップ

 次に顧客情報の管理について、どんな変化があったのかを見ていきましょう。

 若槻さんの頭の中には数百名ぐらいの常連客の情報がインプットされているそうですが、数回しか来店したことがないお客さんに関しては完全に把握できているわけではありませんでした。店の経営を安定させるには、常連客を増やすことが不可欠です。そして、そのためには2回目、3回目のお客さんに、いかに満足してもらえるかが鍵になります。そのために活躍してくれるのが、トレタの顧客情報管理機能だそうです。

 従来は、記憶のあやふやなお客さんについては、カウンター越しでのやりとりから少しずつ前回の来店のことを思い出していたそうですが、今ではトレタの機能で、顧客情報をすぐに参照できます。

 顧客情報については、若槻さんだけではなく、すべての従業員が「気づいたこと」「感じたこと」をトレタに入力していいというルールを作りました。その内容は味の好みはもちろん、お酒の好み、どんなネタを食べたか、利き腕はどちらか、など多岐にわたっています。

 入力された情報は、トレタ画面上で全従業員が閲覧することができます。以前のシステムでは、顧客情報が入力されたパソコンは若槻さんしか操作できませんでしたし、若槻さん以外の従業員が接客した顧客の情報はそのシステムに入力されておらず、顧客情報は個々の頭およびパソコン内に分散しているような状態でした。しかし、トレタを導入したことで、従業員全員で顧客情報の共有化ができて、その結果おもてなしの質も上がっていきました。

若槻「トレタを見れば、お客様が初回来店なのか、それとも2回目、3回目なのか、一目でわかります。以前にもご来店いただいていれば、前回召し上がったものを振り返って確認し、『以前もお見えになりましたよね』『そのときは○○を召し上がりましたが、今回はどうしましょう』とちょっとしたお声がけができます。その一言があるだけで、お客様の顔色は変わりますし、会話も生まれていきます。そうした細やかなおもてなしが、自分が接客してお顔や好みを覚えているお客様だけではなく、全従業員がすべてのお客様に対してできるのはやはり大きなことだと思います」

月商1000万円を達成した寿司店の秘密つけ場で予約や顧客情報を確認できる。

 また、毎朝の仕入れに行く前にも必ずその日の予約状況と顧客情報に目を通すことで、来店するお客さんの好みに合わせた仕入れが確実にできるようになったそうです。

 トレタを使いはじめて3ヵ月後には、オプション機能である「トレタフォン」も導入。標準機能では電話番号を入力すると顧客情報が表示される仕組みになっていますが、トレタフォンを使うことで電話の着信時に「お客さんの名前」「顧客属性」「来店回数」などがトレタに表示されるようになります。そのため、相手の名前や電話番号を聞かずとも、電話に出た段階で「○○様、いつもお世話になっています」と先回りした対応ができるようになったのです。

若槻「店に来ていただくお客様には、できるかぎりの最高のおもてなしをして、ご満足いただきたい。そんな思いは常にあります。トレタを使うようになってからは、常に予約状況を確認できるし、顧客情報をしっかり共有できているおかげで、店全体としてのサービスが向上している実感はあります。ありがたいことにお客様のリピート率も上がっている手応えを感じています」

 すでに述べたように、以前のシステムでは「予約受付→パソコンを立ち上げて顧客情報の確認→顧客情報を予約台帳に転記して、配席やサービスの仕方について従業員に指示」という手間のかかることをしていました。

 しかし、トレタを使うようになってからは予約受付と顧客情報の確認が同時にできるようになり、顧客情報(配席、味やお酒の好みなど)の共有もトレタ経由で行えるので、若槻さんから従業員にいちいち細かな指示を出す必要もなくなりました。これは典型的な「IT化による効率化」です。

 また一方で、顧客情報の共有化によって、これまでできなかった細やかなおもてなしができるようになった点は「高度化」だといっていいでしょう。

ウェブ予約を活用し、2回転できるように。
売上は過去最高を更新

 トレタを導入して以降、予約数も増え、売上も伸びていったそうで、2015年12月の月収は過去最高の1000万円に。坪あたりに換算すると30万円を超えており、飲食店としてはかなり優秀な数字だといえます。

 この成果に対して、若槻さんご自身も驚いているようで、「正直、2年後、3年後ぐらいの目標だったので、こんなに早く実現できるとは思ってもいなかった」と話してくださいました。

 これほどの急成長が実現できた背景には、ここまで述べてきた「IT化によるおもてなしの向上」があることは間違いありません。若槻さんの接客に対するこだわりの強さを聞くにつけ、私も「この店だったら、ぜひ通いたい」と思ってしまいましたから。

 さらに、売上が期待以上に成長した理由は、おもてなしの改善だけではなく、もうひとつ大きな要因がありました。それが「ウェブ予約の導入」です。

 トレタの基本機能のひとつに「ウェブ予約ページ無料設置」があります。この機能では、店ごとの専用予約ページを立ち上げることができるほか、ウェブ予約用に開放する座席や時間帯を選んだりすることもできます。

 『鮨竹半 若槻』では、座席はカウンター2席分とテーブル席に限定して、18時もしくは18時半スタートで2時間の時間制限付きで、ウェブ予約を受け付けています。結果、21時に次のお客さんが来たとしても確実に入ってもらうことができて、2回転できるようになったのです。

月商1000万円を達成した寿司店の秘密『鮨竹半 若槻』の店内。

若槻「以前は1回転がほとんどで、できたとしても1.2回転ぐらい。しかし、ウェブ予約を採用することで、早い時間にご予約いただけるようになりましたし、例えば20時くらいにお客様から座席のおたずねがあっても、ウェブ予約の対象にしている席であれば『21時に空きますよ』とお伝えできるようになったんです」

 席の回転数が上がるという成果が出て、今でこそウェブ予約の効果を実感している若槻さんですが、当初は時間制にすることに抵抗があったといいます。

若槻「終わりの時間を指定することはお客様に対して失礼なのではないか、という心配はありました。でも、予約をウェブで取りたいという方に喜んでいただけているのは確かですし、そもそも2時間でしっかりとご満足いただけるサービスをこちらが提供できればいいわけです。それに21時以降の予約をお問い合わせいただいたお客様に確実に入っていただくことで、その方にもご満足いただける。やはり飲食店として、お断りするのがいちばん切ないですし、お客様にも申し訳ないですからね。ですから、今ではウェブ予約は、うちにとっても、お客様にとってもメリットのあることだと考えています」

 『鮨竹半 若槻』におけるウェブ予約の効能は、前項の顧客情報の管理と同じように、「効率化」と「高度化」の両面があるのではないかと、私は見ています。

 ウェブ予約を導入したことで、若槻さんや従業員がいちいち電話対応をしなくとも、予約が入るようになったことは「効率化」だといえます。一方、電話での予約受付だけでは1回転~1.2回転が限界だったのに対して、ウェブ予約の併用で2回転できるようになったこと、さらに店舗の営業時間外でも予約受付できるようになったことは「高度化」です。このウェブ予約の事例からも、「効率化と高度化は表裏一体である」ということをご理解いただけるのではないでしょうか。

ITサービスは
人間の能力を支援するもの

 寿司屋というと飲食業界の中でも特に「職人の世界」というイメージが強く、クラウドやアプリ、iPadなどのテクノロジーは相応しくないと考える人がいるかもしれません。ITに頼るのではなく、大事なのは腕を磨き、目利きの力を磨き、お客の好みを自分の頭で覚え、いいものを出すことだ、と。私自身、そんな職人さんが理想を追求する姿勢には共感しますし、心から尊敬しています。そのような努力こそが、魅力的なお店作りの土台になることは間違いありません。

 しかし若槻さんの場合、技や目利きを磨くことへの意識は当然として、さらにそれに加えて「寿司屋はサービス業である」という信念があり、「一人一人のお客さんに対して、自分はどんなおもてなしができるか」ということへのこだわりが強いのだと思います。技を磨くのも、いい素材を仕入れるのも、すべてはお客さんの喜びのため。お客さんに喜んでもらうためにできることをすべてやりたい。そんな理想を思い描いているからこそ、ITサービスの必要性を直感的に理解して、トレタを導入していただけたのだと思います。

 実際、若槻さんは次のように語ってくれました。

若槻「正直に言えば、私もはじめは予約を取るときにお客様の前で紙の予約台帳ではなく、iPadを出すのはどうなんだろうと思ったりもしました(笑)。でも、今はまったく抵抗はないですし、むしろお客様の方から『iPadを使っているんだ。すごいね』と声をかけてくださいます。

月商1000万円を達成した寿司店の秘密

 私は寿司を通じてお客様に喜んでいただきたいと思って、日々店に立っています。自分が修行していた時代と今の時代を比べると、寿司屋の仕事の仕方も、寿司そのものもどんどん進化しています。であるならば、サービスの仕方だってどんどん変わっていくべきだと思うし、必要があれば新しいツールを積極的に使っていくべきだと考えています」

 寿司屋で紙の伝票や予約台帳ではなく、スマートフォンやタブレットが出てきたら興ざめするのでは?と心配される飲食店経営者の方も少なくないはずです。しかし、そうしたテクノロジーを活用することで、これまでできなかったサービスができるようになるならば、そちらの方向に舵を切るのもひとつの進化の方向性としては“アリ”だと思うのです。

 もちろんそのテクノロジーを上手く使って、魅力的なお店にしたり、お客さんに喜んでもらうには、その店で働く人たちの知恵や工夫、つまりクリエイティビティが必要です。テクノロジーは所詮は「ツール」であり「道具」に過ぎません。そのツールを活用してどのようなお店作りを目指すかは、結局それぞれお店の個性や理想像、そして哲学次第なのです。

 『鮨竹半 若槻』では、自分たちの能力を拡張し、従来のやり方では超えられなかった限界を突破するためのツールとして、テクノロジーを十二分に使いこなしていました。予約数や売り上げを着実に伸ばすことができているのも、若槻さんという熟練の職人の技や経験とトレタのテクノロジーが理想的なかたちで融合しているからに他なりません。

→この連載の第1回はこちらから!

◆今後、本連載では飲食店における「集客」「POS」「決済」「会計」「仕入」のITサービスも紹介する予定です。楽しみにお待ちください!