7月29日、資生堂は1000円を切る低価格の戦略ブランド「専科」を9月中旬に投入すると発表した。化粧水を皮切りに、順次ラインナップを広げていく予定だ。市場想定価格は980円程度で、資生堂が3ケタの価格帯に新ブランドを投入するのは、異例である。

 従来、資生堂や花王、コーセーなど大手化粧品メーカーの主力商品は、中価格帯(2000~5000円)が最も厚く、次いで5000円超の高価格帯に集中している。2000円未満の低価格帯の商品もないわけではないが、参入メーカーが多く価格競争が激しいため利幅が薄く、大手メーカーは収益悪化を恐れて「本気で」市場開拓してこなかった。

 ところが、リーマンショックを契機に消費者の節約志向が強まり、中価格帯から低価格帯へと市場が大きくシフト。販売チャネルも大手が得意とする百貨店に代わって、低価格帯の商品を取り扱うドラッグストアが主力になりつつある。その結果、2009年度決算で大手各社の売上高は軒並み前年割れとなり、国内販売をどう立て直すかが各社の喫緊の課題となっていた。

 資生堂にとって、新ブランド「専科」は極めて画期的な商品となる。これまで手をこまねいていた国内の低価格帯市場で攻勢に打って出るべく、販売ルートは自社の販売会社ではなく、商品を大量に集中して供給できる問屋ルートを使い、徹底して販売数量拡大を追求する。

 さらに、市場を国内だけでなくアジア地域全体に広げることで、規模のメリットを生かし、価格競争力を高める。10年内に台湾、11年以降中国などアジア各国へと順次導入する予定だ。当初は日本で製造するが、アジア展開をにらみながら、今年4月に本格稼働したベトナム工場への生産移管も検討する。

 「17年にアジアを代表するグローバルプレーヤーへと成長する」と明言している前田新造社長にとって、「専科」はまさに切り札なのだ。

 「とうとう資生堂が本気になったか」——。某化粧品メーカー幹部は、警戒感を顕にする。最大手の資生堂が低価格帯市場に本格参入したことで、今後は大手競合他社も追随せざるを得ないだろう。そうなれば、価格競争はさらに熾烈なものとなる。規模に物を言わせた大手が勝つか、隙間を狙って攻める中小が生き残るか。低価格帯市場の乱戦が幕を開けた。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 前田剛)

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