EU離脱機運が高まる英国で<br />カレーを通じて知る多文化主義英国で日本のチキンカツカレーが大人気になっている。ダイエットにいい日本食だという誤解も一部で広まっているようだが……Photo by Izuru Kato

「チキンティッカ・マサラは今や英国の真の国民食だ」。2001年、ロビン・クック英外務大臣(当時)は講演でそう語った。チキンティッカ・マサラとは、香辛料に浸した鶏肉を釜で焼いた「チキンティッカ」に、トマトとヨーグルトをベースにした「マサラソース」をかけたカレー料理のことだ。

 1983年に英大手スーパーが、このカレーの冷蔵パックを販売するようになってから、一般家庭で爆発的に普及した。7年前のデータだが、英国でこのカレーは年間2500万食も食べられ、その関連で6.5万人の雇用が生み出されているという。

 クック元外務大臣も含め、この料理は英国で誕生したと信じている人はとても多い。数カ月前にカレー店が集中する英ロンドンのブリックレーンに行ったときも、次のような光景を目にした。

 団体客を連れ歩いていた観光ガイドが、「チキンティッカ・マサラは英国生まれの料理で、今やわれわれのソウルフードになっている」と実に自慢げに解説していた。

 70年代に英グラスゴーのインド料理店に来た客が、パサパサしているチキンティッカに何かソースをかけてくれと店に頼んだ。困ったシェフがマサラソースをかけたことがこのカレーが誕生したきっかけだという。同地域選出の国会議員が、これを英国伝統料理として欧州連合(EU)に登録すべきとの運動を展開したこともある。

 しかし、近年あるジャーナリストがインドに取材に行ったところ、料理研究家や老舗ホテルのシェフから「似たような料理は何百年も前からインドに存在している」と反論された。