賃貸用不動産の時価開示で、2兆円を超える含み益を持つことが明らかになった三菱地所。東京・丸の内の再開発やビルの賃貸事業で圧倒的な強さを示す一方で、住宅・資産開発事業での脆弱さを併せ持つ。日本有数の「ザ・ディベロッパー」の三菱地所。その凄みとアキレス腱を検証した。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)

 東京・丸の内の金融機関で働く佐々木茜さん(仮名・34歳)は、丸の内にほぼ「毎日」通う。休日は友人と丸の内仲通りでブランドショップをのぞき、東京駅横の複合ビル「TOKIA」のカフェでおしゃべりに花を咲かせるのがなによりの楽しみだ。丸の内ビルホールの映画の試写会に行ったり、新丸の内ビルで催されるヨガのクラスに通ったり。少し早起きした朝には、開店と同時にクロワッサンが売り切れるブリックスクエアの名店「エシレ・メゾン デュ ブール」に並び、花が咲き乱れる中庭のベンチで食べることもある。

「丸の内で買えない物やサービスはないし、緑や花や美術館があってくつろげる。街中の店で同じポイントカードが使えるのもいい。銀座のデパート? もう何年か行ってない。ファストファッションの店が増えて落ち着かない」と佐々木さんは言う。

 夜と休日には無人になる“黄昏のオフィス街”──1990年代末に丸の内はこう揶揄された。しかし、いまや家族連れやカップルで溢れる都内有数の一大商業地に変貌した。

 仲通りはブランド店の集積度で銀座を圧倒し、紳士服のブルックスブラザーズのように、銀座店を畳んで丸の内に移転するブランドまで現れた。

 佐々木さんのように、丸の内で働く会社員が、友人や家族を連れて休日にもやって来るほか、はとバスが止まる観光スポットにもなっている。2009年度、丸ビルと新丸ビルを合計した年間の来客数は4400万人を超えた。これは百貨店業界で最強の集客を誇る伊勢丹新宿店2店分に匹敵する。

 強さの源泉はテナントへの徹底したこだわりだ。「チェーン展開していない名店を全国から発掘し、出店後は共同事業者として、店舗設計に加え、メニューや商品の開発までテナントと共同で行う」(河野雅明・三菱地所専務)。一般的には小売り業のテナント誘致は半年~1年かけて行うものだが、三菱地所が誘致した店のなかには、なんと8年かけて口説き落とした京都のレストランもある。出店が決まれば、テナントと共同で今までなかった業態や商品を新たに開発することもザラだ。